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インフラマネジメント

▶ 定義

インフラマネジメントとは、点検・対策等に「メリハリ」を付け、その基礎となるインフラ状況等の「見える化」とそれを通じた「モーメンタム」の醸成を図り、担い手に「もっと光を」当てる取組を進めたうえで、機能的・空間的・時間的な観点からそれらを統合的にマネジメントすることにより、全体として最適化することである。

この定義は、国土交通省の社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会 インフラマネジメント戦略小委員会が2026年8月24日に審議した「中間とりまとめ(素案)」にもとづくものです。素案は確定前の段階にあり、同じ回には「中間とりまとめのタイトルについて」という資料も配布されています。引用の際は「素案」であることを明記してください。

01 なぜ「メンテナンス」ではなく「マネジメント」なのか

日本のインフラ政策には、大きな転換点が2つあります。1つ目は2012年12月の中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故です。翌2013年を「社会資本メンテナンス元年」と定め、点検・診断、対策実施というメンテナンスサイクルのもとで、5年に1度の定期点検が義務化されました。

2つ目が、2025年1月28日に埼玉県八潮市で発生した、下水道管路破損に起因する道路陥没事故です。素案はこの事故について、次のように書いています。

令和7(2025)年1月28 日に埼玉県八潮市において発生した下水道管路破損に起因する道路陥没事故によって、これまで進めてきたインフラメンテナンスの取組だけではまだ不十分であり、人口減少等が進む中、戦略的にインフラマネジメントに転換しなければならないことを痛感したところである。

笹子の事故が「点検を義務づける」転換だったとすれば、八潮の事故は「点検した後をどうするか」を問うものでした。素案は、これまでの維持管理体制が「劣化進行が緩やかな時代」を前提に組まれてきたと指摘したうえで、管理需要は増える一方で人的・財政的資源は縮小するという構造的な課題が生じていると整理しています。だからこそ、個々の施設を丁寧に直す「メンテナンス」ではなく、限られた資源をどこに割り当てるかを決める「マネジメント」が必要になる、という筋道です。

もう1つ、素案が強調しているのは出発点です。「インフラマネジメントの出発点は、インフラや地域の現状等を的確に『観察』し、その特性や課題を深く『理解』することにある」。制度でも技術でもなく、観察と理解から始めると明記しています。

02 5つの考え方

素案は、インフラマネジメントへの転換に向けた具体的な考え方を5つ挙げています。前の4つが取組の中身、最後の1つがそれらを束ねる枠組みという構成です。

考え方 素案が示す内容
「メリハリ」の推進 重点化する「メリハリ」と軽量化する「メリハリ」の2つを加速し、「考える」マネジメントを進める。点検・調査方法等の充実・効率化、メンテナンスの優先度設定、必要に応じた計画的な集約・再編。ただし優先度が低いと判断された施設にも状況に応じた適切な対応が必要とされる。
「見える化」の徹底 管理者や担い手にとっての「見える化」と、市民への「見える化」の2種類がある。前者は整備・修繕・更新をどう進めるかを判断するための出発点、後者は「モーメンタム」の醸成に不可欠と位置づけられる。
インフラの「自分事化」と
「モーメンタム」の醸成
インフラ危機を「専門家だけの課題」ではなく「市民一人一人の生活に直結する自分事」として認識してもらう。市民の関心が高まり、メディアが取り上げ、政治が動き、予算が確保され、人材が集まる循環を生み出す。
担い手に「もっと光を」当てた
インフラマネジメント産業の構築
現場の担い手が安全に働きがいを持って活躍できる環境を整え、地域に密着した持続的な産業へ発展させる。地域の生活と経済の基盤を支えるエッセンシャルサービスとして「業界力」の向上に努める。
統合的「マネジメント」の構築 計画・調査・設計・整備・点検・診断・修繕・更新のライフサイクルを一連で考え、設計段階からメンテナビリティ(維持管理の容易性)やリダンダンシー(冗長性)を確保する。群マネや包括的民間委託の推進もここに含まれる。

定義文にある「機能的・空間的・時間的」は、この5つ目に対応します。機能的とは様々なインフラ分野や主体間の連携・協働、空間的とは地上や地下等に分散して存在する種々のインフラを一体的に捉えること、時間的とはライフサイクルを一連として考えることです。都市部の道路陥没で下水道が主因になる例のように、道路と下水道を別々に管理していては見えない問題があります。それを「空間的な統合」で捉え直そうとしています。

03 アンケートが示した「方針と現場の距離」

素案の第1章は、地方公共団体へのアンケート結果を各項目に添えています。方針として掲げられていることが、現場でどの程度実行されているかが分かる数字です。

  • 「メリハリ」を設けた取組は約7割の機関・部署で未実施。理由は都道府県・市・特別区で「優先付けの判断が難しい」、町・村で「地域・議会の反対(が予想される)」
  • 新技術の導入・活用による点検等の効率化は約8割の機関・部署で未実施。理由は「導入コストが必要」「有用性の判断や使いこなす人材がいない」
  • インフラの状況を住民に公表していない機関・部署が約5割。うち約4割は「無用な不安・誤解を与える恐れがある」等の理由で「公表する必要はないと考えている」
  • 群マネの実施・検討は約1割、包括的民間委託の活用も約1割にとどまる

背景として素案が挙げるのは、市区町村の土木費が1993年度の約11.5兆円をピークに近年は約6.5兆円程度(ピーク時の約6割)へ減っていること、そして全国の約4分の1の市区町村で技術系職員が皆無、約5割で5人以下という体制です。素案は「現場では基礎となる点検にすら疲弊し、必要なメンテナンスに手が及んでいるとは言い難い状況である」と率直に記しています。

04 民間の設備保全にとっての意味

インフラマネジメントは公共インフラを対象とした概念であり、工場やビルの設備保全に直接適用される制度ではありません。ただし素案自身が「本小委員会での調査審議内容は、国土交通省所管インフラ以外のその他インフラについても参考となるものである」と書いているとおり、考え方は分野を越えて通用します。

民間の保全部門にとって示唆的なのは、次の3点です。

  • 「全部を等しく」をやめる根拠を国が示した:優先度をつけることは手抜きではなく、限られた資源で全体最適を図る正当な手段だという整理。社内で点検頻度の差別化を提案するときの後ろ盾になります
  • 「軽量化するメリハリ」を明示した:直さずに減らす(集約・撤去・機能縮小)という選択肢を、政策文書が正面から扱っています。休止設備や予備機の棚卸しも同じ発想です
  • 「見える化」を2種類に分けた:管理者向けと市民向けを分けたのと同じように、保全部門内の可視化と経営層への可視化は別の仕事です。予算がつくかどうかは後者で決まります

なお、ストックマネジメントインフラ長寿命化計画との関係を整理すると、インフラマネジメントはそれらを包含する上位の枠組みにあたります。長寿命化計画・個別施設計画がメンテナンスサイクルを回すための仕組みだったのに対し、インフラマネジメントはそのサイクルにどう強弱をつけ、どの範囲で束ね、いつの段階から考えるかまでを扱おうとしています。

担当者が明日からできること
  • 引用するときは「素案」と書く:この定義は確定前の中間とりまとめ素案によるものです。社内資料や稟議に引くときは、出典に「第5回インフラマネジメント戦略小委員会 資料3(令和8年8月24日)」と資料名まで書いておくと、後の改訂に追随できます。
  • 自社の「メリハリ」の有無を点検する:設備の重要度で点検周期や予算配分を変えているか。変えていないなら、素案がいう「約7割の未実施」と同じ状態にあります。
  • 「見える化」の相手を決める:いま作っている保全レポートは、保全部門向けか経営層向けか。素案が2種類を分けたのは、目的が違えば作り方も違うからです。

よくある質問

Q. 「インフラメンテナンス」とは別の言葉なのですか。

A. 別の言葉として使い分けられています。素案は「インフラメンテナンスからインフラマネジメントへの転換」という表現を用いており、メンテナンス(点検・診断・修繕・更新のサイクルを回すこと)を包含したうえで、優先度づけ、分野・主体・空間・時間の統合、担い手の確保までを含む広い概念としてあらためて定義したものです。

Q. すでに法律や計画で決まったことですか。

A. いいえ。2026年8月24日時点では審議会の小委員会が審議した中間とりまとめの素案です。ただし、関連する方向性はすでに政府方針にも現れています。2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」には総合的なインフラマネジメントの推進やメンテナンスの予防保全型への転換が、同日閣議決定の「地域未来戦略」には群マネの推進が明記されています(素案の記述による)。

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