▶ 定義
No Entry点検とは、下水道管きょのように人が立ち入るには危険な空間を、ドローンやロボットなどの無人の機材で点検し、人を内部に入れずに状態を把握する取り組みの呼称である。
法令で定義された用語ではありません。国土交通省の技術実証事業の採択事業名として用いられており(後述)、民間各社もこの呼称を使っています。「立ち入らない(No Entry)」という状態そのものを指す言葉であり、特定の機材や工法の名称ではない点に注意が必要です。
01 言葉の出所 ── 国交省の採択事業名として登場する
国土交通省は令和8年3月31日、上下水道一体革新的技術実証事業(AB-Crossプロジェクト)の令和8年度採択事業を公表しました。「下水道管路メンテナンスの高度化・メンテナビリティの向上につながる技術」というテーマで4件が採択され、その第1号がこれです。
実施者:株式会社Liberaware、管清工業株式会社、株式会社日水コン、アキュイティー株式会社、千葉市共同研究体
概要:過酷な下水道管環境において、飛行型ドローンを活用した無人点検およびAI診断技術の高度化を実証し、調査困難区間における安全性向上、省人化、点検品質の高度化を図る
ただし同じ資料には「※『事業名』、『概要』は各実施者からの提案によるもの。」という注記があります。つまり「No Entry」は国が定義した用語ではなく、提案者が用いた呼称を国交省が採択事業名として公表したものです。本サイトが「国交省が定義した」と書かないのはこのためです。
民間側では、日本ヒューム株式会社が2026年6月26日のリリースで「国土交通省が推進する『No Entry(危険な下水道管へ人が立ち入らない維持管理)』の考え方」と説明しており、業界内でこの意味で共有されつつある言葉だと分かります。
02 なぜ「人を入れない」ことが目標になるのか
下水道管きょの内部は、硫化水素による中毒・酸欠のリスクがある閉鎖空間です。人が入る前提の点検には、安全対策・資格・体制がそのまま費用と時間として乗ります。加えて、点検すべき量が急速に増えています。
- 点検義務がある:国は平成27年に下水道法に基づく維持修繕基準を創設し、硫化水素による腐食のおそれの大きい下水道管路について5年に1回以上の頻度での点検を義務づけています
- 調査量が一気に増えた:令和7年1月の埼玉県八潮市の道路陥没事故を受けた全国特別重点調査は、対象535団体・5,332km。令和8年2月末時点で5,121kmの目視調査を実施し、対策が必要な延長は748km(緊急度1が201km、緊急度2が547km)に上りました
- 人手が足りない:調査困難区間ほど人力での確認は難しく、時間もかかります。採択事業の概要が「調査困難区間における安全性向上、省人化、点検品質の高度化」を並べているのは、この3つが同時に課題だからです
「見つける」量が増えたことは、そのまま「直せない」問題にもつながります。この論点は修繕ギャップのページで扱っています。
03 無人化の方向は1つではない ── 同時採択の4事業
令和8年度に採択された下水道管路メンテナンス分野の4事業を並べると、「人を入れない」ための道筋が複数あることが分かります。自治体・管理者にとっては、管径や条件に応じた選択肢として読めます。
| アプローチ | 事業の内容 |
|---|---|
| 飛行型ドローン+AI診断 | 概略点検と詳細点検を併用し、調査困難区間の安全性向上・省人化・点検品質の高度化を図る |
| フロート式点検ロボット | 農業水利施設・電力土木分野の水路トンネル点検で実績のあるフロート式ロボットを、下水道管路特有の環境条件へ適応させる |
| 次世代DXモデル | ドローン・カメラによる現地点検、AIや3D点群による損傷・変状検出から診断、データのマッピング、デジタル台帳管理までを一連のプロセスとして運用実証する |
| 天井走行ロボット | 管路背面の初期空洞に対し、地上遠隔での完全無人点検、飽和地盤における空洞検知指標の確立、複数センサー併用による誤検知排除と修繕判断の高度化を行う |
4件のうち3件が「点検の無人化」、1件(次世代DXモデル)が点検からデジタル台帳管理までの一連の流れを対象にしている点は示唆的です。無人で撮っただけでは維持管理は完結せず、記録・台帳への接続まで含めて初めて業務になります。
- 仕様書に「No Entry」とだけ書かない:法令用語でも技術規格でもないため、意味の範囲が人によって違います。「人が管内に立ち入らずに実施すること」など、条件として具体的に書く必要があります。
- 実証段階の技術が含まれる:ここで挙げた4事業はいずれも令和8年度の実証事業です。すぐに調達できる標準工法とは区別して扱ってください。
- 点検の出口(記録・台帳)まで設計する:無人点検で得た画像やデータをどの台帳に、どの粒度で残すかを決めておかないと、次回点検時に比較ができません。
よくある質問
Q. 「No Entry」は国土交通省が定義した用語ですか。
A. 定義した用語ではありません。国土交通省の令和8年度AB-Crossプロジェクト採択事業名に用いられていますが、同じ資料に「『事業名』、『概要』は各実施者からの提案によるもの」と注記されています。国の施策の中で使われている呼称と理解するのが正確です。
Q. ドローンを使えば人はまったく不要になりますか。
A. 点検の対象や条件によります。採択事業の名称自体が「概略点検・詳細点検併用型」となっているとおり、無人機で全体を粗く見て、必要な箇所を詳しく調べるという役割分担が想定されています。また、取得したデータを診断・判定する工程には引き続き人の知見が必要です。
関連する解説記事
点検義務化の経緯、改正下水道法の柱、そして無人点検の実証事例をまとめて解説しています。