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予知保全、自社は今どの段階か──国のガイドライン「SMDG」が示す実現レベル5段階とNEDOの12事例

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この記事の要点

  • 経済産業省とNEDOが公開する「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン(SMDG)」は、ものづくりの変革テーマを57の「変革課題」に整理した公的資料です(令和7年5月・第2版)。
  • その変革課題44「設備不具合の予兆を検知し、安定稼働を維持する仕組み」には、Lv1「情報の標準化」からLv5「現実との双方向連携」までの実現レベル5段階が定義されています。予知保全は「やる/やらない」ではなく「今どの段階か」で測る対象になりました。
  • 2026年6月12日、NEDOは5GDC事業の12の研究開発事例集を公開。うち3件が変革課題44に紐づく設備保全のテーマで、「費用対効果を出しやすい職場の条件」まで明記されています。

▶ 「予知保全をやりたい。でも、何から手を付ければいいのか」

設備保全の現場で、これほど繰り返される問いはありません。センサーの見積もりは届く。展示会でAI診断のデモも見た。それでも、上司に説明できる筋道が描けない──。実はこの問いに対して、国が公的なガイドラインの形で答えを用意しています。経済産業省とNEDOが公開する「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」(略称SMDG)です。本記事では、SMDGが定義する設備保全DXの「実現レベル5段階」と、2026年6月にNEDOが公表した12の研究開発事例を、企業の保全担当者とその上長の視点から読み解きます。

01
5年間の国家プロジェクトが「事例集」になった

2026年7月22日、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)が「『スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン』の実践に活かせる事例集の公表」を発表しました。

対象となったのは、NEDOが2021年度から進めてきた「5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業」(通称5GDC事業/プロジェクトコード P21010)です。事業期間は2021年度から2025年度、2025年度予算は1.1億円。この5年間の12の研究テーマの成果が、「製造現場の全体最適な稼働に向けた12の研究開発事業」と題する紹介リーフレット(2026年4月)と解説動画にまとめられました。12テーマは(1)付帯作業まで含めた工程自動化、(2)製造拠点の遠隔制御・リソース共有化、(3)労働環境変化対応のための情報・知識共有化の3区分に整理されています。

「5Gの実証実験」と聞くと通信技術の話に見えますが、リーフレットを開くと様相が変わります。各事例が「従来の仕組みと問題」から書き起こされ、デジタル技術の話は後半に置かれているのです。リーフレット自身が「自社としての問題を定義し、その解決策として研究開発テーマを整理(デジタルツール先行とはしない)」と構成意図を明記しています。この編集方針が、保全担当者にとって読む価値を生んでいます。

02
SMDGとは何か──57の「変革課題」から自社の重点を選ぶ道具

スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン(SMDG)とは、ものづくりの全体プロセスをデジタル技術で最適化する手法を、企画段階に重点を置いて体系化した公的なガイドラインである。発行はNEDOと経済産業省製造産業局、作成受託はJMAC、著作権者はNEDOです。令和6年6月に初版、令和7年5月に第2版が公開されました。

SMDGが優れているのは、いきなり技術の話を始めない点です。まずものづくりを4つのチェーン(設計から展開する「エンジニアリングチェーン」、調達から納入までの「サプライチェーン」、工場の製造機能を切り出した「プロダクションチェーン」、顧客接点の「サービスチェーン」)に分解し、各チェーンで取り組みうる変革テーマを57の「変革課題」として一覧化しました。ガイドライン本文は使い方をこう勧めています。「変革課題の一覧から、重要と感じる課題を5~10項目選んでみるのがわかりやすい」。想定読者は、スマート化プロジェクトのリーダー役を担う管理職と、その「けん引役」となる経営層です。

ガイドラインが挙げる現場の「難しさ」には、こんな一節もあります。

ITベンダーから様々な提案はあるが、「結局、何を実現したいのか」、ものづくりプロセス自体の改革構想がなく、投資に踏み切れない。/システムやツールを導入したが、有効活用できず、途中でやめてしまった取組みも出てきている。

SMDGは、この「構想が描けない」という詰まりを解くための道具です。

この記事のキーワード

キーワード 概要
SMDG スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン。NEDO・経済産業省が公開。本文と7つの別紙リファレンスで構成される。
変革課題マップ 4つのチェーンごとに変革テーマを57項目へ一覧化した「思考テンプレート」。設備保全に直結するのは第44番。
実現レベル5段階 各変革課題の到達度を、Lv1情報の標準化/Lv2情報・データの蓄積/Lv3データによるプロセス連携/Lv4多頻度解析による最適化/Lv5現実との双方連携、の5段階で定義したもの。
CBM Condition Based Maintenance(状態基準保全)。設備の状態を監視し、基準に達したら保全する方式。時間基準のTBMと対比される。SMDGではLv3に位置づけられる。

03
保全担当者が最初に開くべきページ──変革課題44の「実現レベル5段階」

57の変革課題のうち、設備保全のど真ん中に位置するのが第44番「設備不具合の予兆を検知し、安定稼働を維持する仕組み」です。プロダクションチェーンの「設備管理のレベルアップ」に分類され、SMDGは【現状】を「最適な保全タイミングがわからない/設備トラブルの未然防止が十分でない」、【実現イメージ】を「設備の状態変化の予兆に基づく保全が仕組みとしてできている」と定義しています。評価指標(KPI)は「設備トラブルの削減」と「保全コストの最適化」の2つ。稟議書にそのまま書ける表現が、国の公式資料に載っているわけです。

そして本題です。SMDGはこの課題への到達度を5段階で定義しています。自社がどこにいるかを当てはめてみてください。

レベル 到達している状態(変革課題44の場合)
Lv1
情報の標準化
設備の不具合や、不具合発生の影響因子に関する項目が定義されている。
実務では「管理すべき不具合現象と影響因子の情報取得の形式(カラム・書式等)を決める」段階。影響因子の例=温度・湿度・振動・電流/電圧値など。
Lv2
情報・データの蓄積
定義された項目に基づきデータが蓄積されている。
検知・記録の方法を決め、データベースに貯める。センサー類とデータ管理システムが該当。
Lv3
データによる
プロセス連携
蓄積されたデータに基づき、設備の状態に基づく保全(CBM)が行われている。
蓄積DBから「状態保全基準」=影響因子の閾値と、閾値を超えた際の保全方法を設定し、その基準に沿って保全を実施する。
Lv4
多頻度解析による
最適化
データから不具合の発生リスクを予測し、未然防止に向けた対処を検討・実施できる。
影響因子のトレンドをモニタリングし、システムがリスクを予測して担当者にアラートを出す。
Lv5
現実との
双方向連携
不具合の発生リスクを予測し、未然防止のための最適な対処内容が指示される。
過去の対処と効果の情報を照合し、最適な対処案をコンピュータが自動で検討して示唆する(生成AIの活用が想定されている)。

この表で気づくのは、Lv1とLv2にセンサーやAIの話が一切出てこないことです。最初にやるべきは「何を不具合とみなすか」「何が影響因子か」を項目として決め、書式を揃えること。予知保全が頓挫する典型が「センサーを付けたがデータが使えなかった」であることを踏まえると、この順序には説得力があります。

そしてCBM(状態基準保全)はLv3です。ゴールではなく途中の一段。「うちはまだ紙の点検表だから予知保全なんて無理」ではなく、「今はLv1の途中だから、次は記録項目の定義を固める」と言い換えられる。これがレベル定義を持つ実務的な価値です。

04
12事例のうち、変革課題44に紐づく3件

NEDOの事例集では、12の研究開発それぞれに「SMDガイドラインの変革課題との関連」タグが付けられています。変革課題44のタグが付いているのは次の3件です。

株式会社リョーワ|熟練者のメンテナンスノウハウを生成AIでデータ化

出発点の問題意識が、保全現場そのものです。現場で分厚いマニュアルを確認しながら作業するのは非効率で、実際には熟練者が長年の経験と勘で対応している。その熟練者の引退により、原因分析や技術といったメンテナンスノウハウの断絶が危惧されている──こう明記されています。

解決策は、スマートグラスのカメラ画像から対象機器と状況をAIが判断し、対話型AIとの音声会話でメンテナンス支援情報にたどり着く仕組みと、音声・動画・画像・テキストなど異なる形式の熟練者ノウハウを学習させる仕組みの2本立て。実践のポイントとして「作業日報(結果)だけでは熟練者がなぜその判断をしたかが見えない。ヒアリング音声や作業動画などの生データを活用できるようにすることがポイント」と述べ、費用対効果を出しやすいのは「複雑な故障診断を必要とする多種多様な設備をメンテナンスする必要がある事業者」と条件まで示しています。

熱産ヒート株式会社|工業炉の「事後保全からの脱却」

TBM(時間基準保全)の限界が率直に書かれています。工業炉の炉体内部の断熱材は施工後・稼働中に状態確認が難しいため、事後保全または異常発生前に一定期間で交換するケースが多く、トータルのメンテナンス費用が割高になったり、最適な交換・修理頻度とならないことから熱の漏出などのエネルギーロスが発生したりするリスクがある

同社はまず、アナログの記録紙で管理されていた熱処理の施工データを、記録・帳票出力・分析・過去類似案件の検索という4つのクラウドアプリでデジタル化しました。そのうえで、このノウハウを応用して工業炉などの劣化状況を予想し、予知保全を可能とする「熱データ遠隔監視システム」を開発中としています。まさにLv1・Lv2を固めてからLv4へ向かう順序です。費用対効果を出しやすいのは「熟練者ノウハウの技術伝承に課題観があり、かつ紙帳票の運用が主体となっている職場」。

株式会社ロジック・リサーチ|ローカル5Gで「常駐監視」をなくす

少量多品種向けの半導体製造設備「ミニマルファブ」を拠点集約して運用するため、温度・湿度・気圧・照度・加速度・動画データを収集して品質管理ソフトへ連携し、遠隔からリアルタイムで監視する仕組みを構築しました。数十台の装置からの大容量データをローカル5G(2ms程度の低遅延)で伝送し、配線工事を不要にしています。動画データは「ドライブレコーダーのような役割を担い、不良発生時の時系列的な状況把握や品質改善への手がかりを提供」と説明されており、事後の原因追及を効率化する発想は保全記録の設計にも応用できます。実践のポイントは、オペレーター常駐による監視が必須の現場でも、モニタリング環境と適切なソフト設定によって常駐を解消し、現地トラブル対応工数を最小化できるという指摘です。

残る9件も、工程自動化(DMG森精機の多能工自走ロボットなど)や遠隔制御(日本製鉄の複数製鉄所の制御集約化など)といったテーマで、保全業務の周辺に位置します。物理空間で動くロボットとAIの動向については、あわせて解説記事「フィジカルAIとは何か」もご覧ください。

なお事例集自身が、「これらの事業成果は、研究開発段階での成果が中心であり、実際にビジネスとして展開するには追加の検討が必要なケースも含まれています」と注記しています。すぐに買える製品カタログではなく、「自社が同じ問題に直面したらどう解決するか」を発想するための刺激材料として読むのが正しい使い方です。

保全担当者が明日からできること

  • 変革課題44の5段階に自社を当てはめる:主要設備ごとにLv1からLv5のどこにいるかを一言で書き出す。設備によって段階が違うことが可視化されるだけで、投資の優先順位が付けやすくなります。
  • まず「不具合と影響因子の項目定義」に着手する:Lv1は、不具合事象(発生時期・発生部位・原因/対策)と影響因子(温度・湿度・振動・電流/電圧値など)を、どの書式で記録するか決めるだけの作業です。センサー導入より先に、ここを固める。
  • 点検記録に「なぜそう判断したか」を残す:リョーワの事例が示すとおり、作業日報の結果だけでは熟練者の思考プロセスは残りません。音声メモや作業動画を残す運用は、Lv1・Lv2の質を大きく変えます。
  • SMDGを上司・経営層と一緒に読む:ガイドライン一式(本文+7つのリファレンス+実践ワークシート)と12事例のリーフレット、解説動画はいずれもNEDOサイトで無償公開されています。57の変革課題から各自が重要と感じる項目を5~10個選ぶだけで、部門横断の議論の起点になります。

まとめ

予知保全をめぐる議論は、しばしば「センサーをどこに付けるか」「どのAIを使うか」という技術選定から始まります。しかし国のガイドラインが示す順序は逆でした。まず不具合と影響因子を項目として定義し(Lv1)、決めた項目でデータを貯め(Lv2)、閾値と対処方法を決めてCBMを回し(Lv3)、そのうえで予測へ進む(Lv4・Lv5)。技術が登場するのは、判断の枠組みを決めた後です。

「うちはまだ予知保全なんて」と切り捨てる必要はありません。5段階のどこかには必ず自社が位置しています。まずは主要設備を一つ選び、今どの段階にあるかを書き出してみる。そこから次の一手が見えてきます。製造業のデータをAIが使える状態に整える国全体の動きについては、解説記事「製造業AI-Ready化とは何か」もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. SMDGは中小企業でも使えますか?

A. 使えます。ガイドライン本文は「大企業から中小企業までを対象に、実際にスマート化プロジェクトのリーダー役を担う管理職とその『けん引役』の経営層(役員)にとっての手引きとなるものを目指して作成した」と明記しています。今回の12事例にも、リョーワ、熱産ヒート、SANMATSUなど中小規模の事業者が複数含まれています。

Q. CBM(状態基準保全)とTBM(時間基準保全)の違いは? SMDGでの位置づけは?

A. TBMは稼働時間や暦日など「時間」を基準に定期的に点検・交換する方式、CBMは設備の状態を監視し、あらかじめ決めた閾値に達したら保全する方式です。SMDGの変革課題44では、CBMはLv3「データによるプロセス連携」に位置づけられています。CBMはゴールではなく、Lv4の「リスク予測とアラート」、Lv5の「最適な対処内容の自動提示」へ向かう途中の段階という整理です。

Q. ガイドラインと事例集はどこで入手できますか。有料ですか?

A. いずれもNEDOのウェブサイトで無償公開されています。ガイドライン本体(本文および別紙リファレンス一式)は「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」のダウンロードページから、12事例の紹介リーフレットと解説動画は5GDC事業のページから入手できます。本記事末尾の出典リンクからたどれます。

Q. 5Gがない工場には関係のない話でしょうか?

A. そうとは限りません。5GDC事業は無線通信技術の活用を軸としていますが、変革課題44の5段階そのものは通信方式に依存しない考え方です。実際、熱産ヒートの事例はタッチパネルやタブレットでの記録から始まっており、リョーワの事例の核心も熟練者ノウハウのデータ化にあります。ローカル5Gが効いてくるのは、大容量の動画データを多台数の設備から常時伝送するようなLv4以降の段階です。

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