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改正労働安全衛生規則(熱中症対策の義務化)

▶ 定義

熱中症対策の義務化とは、令和7年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則により新設された第612条の2に基づき、熱中症を生ずるおそれのある作業を行う事業者に対して、報告体制の整備と、症状の悪化を防止するための措置内容・手順の作成、およびそれらの作業従事者への周知が義務づけられたことをいう。

根拠は改正省令(令和7年厚生労働省令第57号/令和7年4月15日公布、同年6月1日施行)。義務の対象はWBGT28度以上または気温31度以上の場所で、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業です。設備の予防措置ではなく「早期発見と重篤化防止」に絞った規定であることが特徴で、違反には罰則があります。

01 義務は2つだけ ── 条文を読む

労働安全衛生規則第612条の2は2項からなります。求められているのは次の2つです。

義務の内容
第1項
報告体制の整備
作業従事者が自覚症状を有する場合、または他の作業従事者が熱中症が生じた疑いがあることを発見した場合に、その旨の報告をさせる体制をあらかじめ整備し、作業従事者に周知する
第2項
措置と手順の作成
作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察または処置を受けさせることその他症状の悪化を防止するために必要な措置の内容と実施手順をあらかじめ定め、作業従事者に周知する

読み取っておきたい点が3つあります。

  • 「あらかじめ」:暑くなってから考えるのでは義務を満たしません。通達は「作業日の作業開始前までに行っておく必要がある」としています。
  • 「作業場ごとに」(第2項):全社共通の1つの手順書では足りない場合があります。搬送先も連絡網も現場ごとに違うためです。
  • 「周知」まで含まれる:作って保管しているだけでは義務を果たしていません。作業従事者が知っている状態にする必要があります。

通達は、これらの措置の目的を「熱中症による健康障害の疑いがある者の早期発見重篤化を防ぐため」と明示しています。WBGT値の低減や休憩設備といった予防措置は従来からのガイドラインの領域で、今回義務化されたのは発症してしまった後の初動だという整理です。

02 自社は対象か ── 2つの条件

条文の「暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業」を、通達が具体的な数値に落としています。場所の条件と時間の条件の両方を満たす場合が対象です。

条件 通達の定義
場所
(暑熱な場所)
湿球黒球温度(WBGT)が28度以上、または気温が31度以上の場所。事業場内外の特定の作業場のみを指すのではなく、出張先での作業、複数の場所を移動して行う作業、作業場所から作業場所への移動時等も含む
時間 上記の場所において、継続して1時間以上、または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業。非定常作業、臨時の作業等であっても条件を満たすことが見込まれる場合は対象

判断の方法についても通達に記載があります。原則は作業が行われる場所でWBGTまたは気温を実測することですが、「例えば、通風のよい屋外作業について、天気予報(スマートフォン等のアプリケーションによるものを含む。)、環境省の運営する熱中症予防情報サイト等の活用によって判断可能な場合には、これらを用いても差し支えない」とされています。

「作業従事者」は自社の労働者に限らない

通達は「当該作業に従事する者」を「労働者だけでなく、労働者と同一の場所において当該作業に従事する労働者以外の者を含む」としています。協力会社の作業員や一人親方も視野に入ります。

さらに混在作業についての記述が重要です。「同一の作業場で複数の事業者が作業を行う場合は、当該作業場に関わる元方事業者及び関係請負人の事業者のいずれにも措置義務が生ずる」とされ、措置が行われていなかった場合は「元方事業者のみに違反が生ずる訳ではなく、当該作業場に関わる全ての事業者に同条違反が生ずる」と明記されています。「元請が用意しているはず」では免責されません。

周知の方法としては「各事業者が共同して1つの緊急連絡先を定め、これを作業者の見やすい場所に掲示することや、メールでの送付、文書の配布等」が挙げられています。

03 体制整備の中身と、罰則

「報告をさせる体制の整備」について、通達は最低限の要件と推奨される方法を分けて示しています。

区分 内容
含まれるもの
(最低限)
報告を受ける者(作業場の責任者等)の連絡先および連絡方法を定め、かつ明示することにより、作業中随時報告を受けることができる状態を保つこと
推奨される方法 責任者等による作業場所の巡視/2人以上の作業者が作業中に互いの健康状態を確認するバディ制/ウェアラブルデバイスを用いたリスク管理/責任者・労働者双方向での定期連絡/これらの組合せ

ウェアラブルデバイスについては留保が付いています。「必ずしも当該機器を着用した者の状態を正確に把握することができるわけではないため、他の方法と組み合わせる等により、リスク管理の精度を高めることが望ましい」。機器の導入だけで済む話ではないという注記です。

また、手順どおりにいかない場合の扱いも書かれています。「作業者に熱中症が生じたことが疑われる場合には、WBGT値や作業時間等にかかわらず、作成した手順を踏まえ、適切に対処することが重要」であり、状況によって手順どおりが難しい場合は「熱中症の症状の重篤化を防ぐ観点から、何らかの合理的な措置を講じることが望ましい」とされています。

罰則の根拠

通達は「第612条の2は、労働安全衛生法第22条に基づくものであり、個々の事業者に対し、措置義務が課されるものである」としています。労働安全衛生法第22条は事業者に高温等による健康障害の防止措置を義務づける規定で、同法第119条第1号は第20条から第25条までの違反に対して「6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」を定めています。

訓示規定ではなく罰則の付いた義務であること、そして混在作業では全事業者に義務が及ぶことが、この改正の実務上の重みです。

04 施行1年目の結果 ── 死傷は増え、死亡は減った

厚生労働省が公表した確定値です。義務化の初年度が令和7年にあたります。

区分 令和6年(確定値) 令和7年(確定値)
死傷者数(休業4日以上) 1,257人 1,803人(前年比546人・約43%増/統計開始以来最多)
死亡者数 31人 19人(前年比12人・約39%減)

死傷者数の増加については、気象庁による令和7年6月から8月の平均気温偏差がプラス2.36度と統計開始以来最高を記録したことが一因と推測されています。

そして死亡者数の減少について、厚生労働省は「令和7年に施行された労働安全衛生規則の改正により、事業場における熱中症の重篤化防止対策が進み、死亡災害の防止が一定程度図られたためと考えられます」と説明しています。

この2つの数字の動きは、規定の狙いをそのまま反映しています。暑さそのものは減らせないので発症は増える。しかし早期発見と初動が整えば死亡は防げる。第612条の2が「予防」ではなく「重篤化防止」に絞られている理由が、初年度の結果として現れた形です。

※ 令和6年の数値は令和7年5月30日公表の確定値です。改正省令の通達(令和7年5月20日)は令和6年の死傷者数を1,195人としていますが、これは通達公表時点の数値であり、その後の確定値が1,257人となっています。

設備保全・施設管理の担当者が確認すべきこと
  • 移動と出張が抜けやすい:通達は暑熱な場所に「出張先で作業を行う場合、労働者が移動して複数の場所で作業を行う場合や、作業場所から作業場所への移動時等も含む」と明記しています。複数拠点を回る点検業務は、まさにこの類型です。工場内の作業だけを想定した手順では足りません。
  • 屋内の機械室・ピット・屋上を測る:気温31度は屋外に限りません。夏場の機械室、電気室、屋上の空調室外機まわり、ピット内は容易に超えます。実測して記録を残しておくと、対象判断の根拠になります。
  • 作業場ごとの搬送先を書く:第2項は「作業場ごとに」手順を定めることを求めています。複数の事業所・現場を持つなら、それぞれの緊急搬送先と連絡網が必要です。
  • 協力会社との共同掲示を用意する:混在作業では全事業者に義務が生じます。通達が挙げる「共同して1つの緊急連絡先を定め、作業者の見やすい場所に掲示」が最も確実な運用です。
  • 1人作業を洗い出す:バディ制が推奨される最大の理由は、自覚症状を報告できない状態になったときに誰も気づかないことです。単独での点検作業がどこにあるかを把握してください。

よくある質問

Q. WBGT計を持っていません。それでも対象かどうか判断できますか。

A. 場所の条件は「WBGTが28度以上又は気温が31度以上」であり、気温でも判断できます。また通達は、判断は原則として実測によるとしつつ、「通風のよい屋外作業について、天気予報(スマートフォン等のアプリケーションによるものを含む。)、環境省の運営する熱中症予防情報サイト等の活用によって判断可能な場合には、これらを用いても差し支えない」としています。ただし機械室やピットのような通風の悪い屋内は天気予報では判断できません。この種の場所は実測が必要です。

Q. 対象条件(1時間以上・4時間超)に届かない短時間の作業なら、何もしなくてよいのですか。

A. 第612条の2の義務は生じませんが、通達は「熱中症を生ずるおそれのある作業に該当しない場合であっても、作業強度や着衣の状況によっては、熱中症のリスクが高まることから、事業者は、改正省令に準じた対応を行うよう努めること」としています。また、実際に熱中症が疑われる事象が起きた場合については「WBGT値や作業時間等にかかわらず、作成した手順を踏まえ、適切に対処することが重要」とされています。時間で線を引いて安心する使い方は想定されていません。

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この用語を実務で回すために

第612条の2の義務は「作業場ごとに」手順を定め、作業従事者に周知することを求めています。点検対象が複数の拠点・機械室に散っている場合、どの設備の作業がどの作業場に属し、緊急搬送先と連絡先はどこなのかを設備側の情報と紐づけて持てているかが問われます。本サイトを運営する有限会社エコニティは、設備台帳・点検・部品管理をまとめて扱える無料の設備管理システム「設備管理の匠WEB版」を提供しています。

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