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停電から排水まで、年に1回は実負荷で通して動かす──千葉豪雨を受けて国交省が改めた設備点検の基準

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非常用発電設備 管理運転 排水ポンプ 浸水対策 アンダーパス 国土交通省 設備点検

この記事の要点

  • 国土交通省は2026年10月6日、「道路関係設備(機械設備)点検・整備・更新マニュアル(案)」を改定しました。書き足されたのは1項目だけで、アンダーパスの排水設備用の非常用発電設備について、年点検の管理運転を「停電発生から非常用発電設備の起動及び排水設備の稼働までの一連の動作について、実負荷によって確認する」と定めています。きっかけは8月13日、千葉豪雨の際に国道16号村田町アンダーパスで起きた、非常用電源設備の不作動が原因と考えられる冠水です。
  • 同じ日に公表された「アンダーパスにおける冠水事故防止に向けたガイドライン」は、「排水設備等による冠水防止のみに依存することなく」安全を確保するとし、多重防御とフェールセーフを基本に据えました。9月7日に福島県いわき市で起きた死亡事故の現場には、ポンプも水位センサーも注意喚起看板も設置されていました。
  • 千葉豪雨では、マンションの地下の電気設備が浸水して停電・断水・エレベーター停止が起き、浸水想定区域外だった病院でも地下のポンプや電気基板が故障しました。国の文書の対象は道路や公共施設ですが、「設備があるか」ではなく「停電を起点に一連の動作が通るか」を確かめるという考え方は、工場やビルの非常用発電・排水ポンプ・地下電気室の点検にそのまま当てはまります。

01
8月13日、国道16号のアンダーパスで何が起きたか

2026年8月13日、千葉県を中心に記録的な大雨が降りました。国土交通省の水災害調査・対策検討委員会に提出された資料によれば、9月9日時点で死者13名・負傷者46名、床上浸水1,054戸・床下浸水2,736戸、停電は最大約46,980戸、道路上の被災車両は最大約3,100台にのぼります(消防庁・経済産業省・国土交通省の集計)。

このとき、千葉市中央区の国道16号村田町アンダーパスが冠水しました。国土交通省道路局は8月21日の発表[6]で、これを「非常用電源設備の不作動が原因と考えられる冠水事案」と書いています。アンダーパスは前後の道路より低く掘り下げた区間なので、雨水はポンプで強制的に排水しています。停電すれば非常用発電設備が自動で起動し、ポンプを回し続けるはずでした。

国は翌8月14日から、全国の直轄国道でアンダーパスなど冠水のおそれのある102箇所を緊急点検しました。点検の主眼は「停電時に非常用電源設備及び排水設備が自動的に起動する状態となっているか」です。8月21日までに全箇所の点検を終え、3箇所で異常を確認し、うち2箇所は補修を終えています。補修が済んでいない1箇所では、事前の通行規制や、停電時に直ちに手動で切り換えられる体制で対応するとしています。

同じ日に関東地方整備局が公表した中間報告では、村田町の排水ポンプ設備は「現在の一般的な設備とは異なる特徴を有している」ことが有識者により確認されたとされ、国は類似の構造をもつ排水ポンプ設備の有無について全国調査を始めました。原因調査は継続中で、本記事では故障の部位や仕組みには立ち入りません。

その後も被害は続きました。9月7日朝、福島県いわき市が管理する市道沼田・馬場線のアンダーパス(米田アンダーボックス)で車両2台が水没し、1名が亡くなっています。国土交通省道路局が同日付で道路管理者に出した事務連絡に添付された資料には、この箇所の対策として「ポンプ:有」「注意喚起看板:有」「水位センサー:有」と記されています[8]。時間雨量の最大は32mm(6時~7時)でした。

さらに10月に入ってからも、内閣官房が「台風第25号等による千葉県の豪雨」に関する衛星画像の加工処理画像を公表し[12]、経済産業省が台風第18号・第25号に伴う被災中小企業への支援措置を発表しています[13]。大雨は、秋になっても終わっていません。

用語 意味
アンダーパス 道路や鉄道と立体交差するために、前後の区間より低く掘り下げた道路。国と地方自治体が管理する道路で全国3,841箇所(令和7年3月31日時点)[9]。周囲から雨水が集まりやすく、短時間で水位が上がる
管理運転 設備の作動確認や機器内部の防錆・なじみの確保などのために行う運転。道路機械設備のマニュアルは「実負荷運転又はそれに近い総合試運転」と定義している(詳しくは用語集「管理運転」)
実負荷 実際の運転状態と同じ負荷をかけること。排水ポンプなら、実際に水を汲み上げて排出する状態
多重防御 1つの設備や対応が働かなくても、ほかの手段で安全を確保できるよう対策を重ねること
フェールセーフ 停電や故障が起きても、安全な側に移行できるようにしておく考え方。ガイドラインは「致命的な状態になることをなるべく回避できるような配慮」と注記している
内水氾濫 大雨のときに、下水道などの排水施設で雨水を排除できない、または排水施設から河川などへ雨水を排除できないことで起きる浸水。水防法は「雨水出水」と呼ぶ。河川の洪水(外水)と区別して扱われる(詳しくは用語集「内水氾濫」)

02
マニュアルに書き足された1項目

10月6日、国土交通省の大臣官房参事官(イノベーション)グループ施工企画室と道路局国道・技術課道路メンテナンス企画室は、「道路関係設備(機械設備)点検・整備・更新マニュアル(案)」の一部改定を発表しました。マニュアルは平成28年3月に作られたもので、トンネル換気設備や消融雪設備、道路排水設備など、直轄管理の道路管理用施設として設置された9種類の機械設備の点検・整備・更新に適用されます。改定版は同日から運用されています。

新旧の対比表を見ると、変わったのは点検の実施内容を定めた節(対比表で25ページ)の末尾に、次の1項目が加わったことだけです。

道路排水設備(アンダーパス)用の非常用発電設備については、非常時における起動条件、一連の制御機能及び電源系統を確認する。確認にあたっては、停電時に各機器への電力供給が確実になされることに留意する。なお、年点検時における管理運転は、原則として停電発生から非常用発電設備の起動及び排水設備の稼働までの一連の動作について、実負荷によって確認する。

出典:国土交通省「道路関係設備(機械設備)点検・整備・更新マニュアル(案)」対比表(令和8年10月)[2]

報道発表[1]はこの改定の目的を「設備のシステム構成にかかわらず、実際の運転状態において設備全体が確実に機能することを確認するため」と説明しています。ポイントは3つあります。

  • 確認の対象が「一連の動作」になった:発電機が回るか、ポンプが回るかを別々に確かめるのではなく、停電が起きたところから、発電機の起動、電源の切り換え、ポンプの稼働までを1本の流れとして確認する
  • 「起動条件」「制御機能」「電源系統」を名指しした:発電機そのものだけでなく、何をきっかけに起動するのか、どの順で機器に電気が届くのかという、設備と設備のつなぎ目が確認項目になった
  • 年点検では原則として実負荷:実際にポンプで水を排出する状態で確かめる
停電から排水までの一連の動作を左から右へ5つの箱で示した図。①停電発生、②非常用発電設備が起動(起動条件)、③電源の切り換え・各機器へ給電(制御機能・電源系統)、④排水ポンプが稼働、⑤実際に排水(実負荷)の順で矢印がつながり、全体を括弧で囲んで、年点検の管理運転でこの一連の動作を原則として実負荷で確認すると書かれている。下部に、単体ごとの作動確認ではなく、つなぎ目を含めて通しで確かめるとの注記がある
発電機とポンプを別々に確かめるのではなく、停電から排水までを1本の流れで確かめる。
出典:国土交通省「道路関係設備(機械設備)点検・整備・更新マニュアル(案)」令和8年10月一部改定[3]をもとに当社作成

「管理運転」の定義を読み比べる

マニュアルは用語の定義で、管理運転を「設備の作動確認、装置・機器内部の防錆やなじみの確保等を目的に行う実負荷運転又はそれに近い総合試運転」としています。そのうえで、管理運転は「運転状態において装置、機器等の状態を確認する点検手法であり、不具合箇所の発見に有効な手段である」として、特段の理由がない限り定期点検時に実施することを基本にしています。

同じ国土交通省の「河川ポンプ設備 点検・整備・更新マニュアル(案)」(平成27年3月)[4]は、管理運転を「設備の作動確認、装置・機器内部の防錆やなじみの確保、運転操作の習熟等を目的に行う試運転」と定義しています。こちらは、定格に近い全負荷状態での総合運転(全水量運転方式)が望ましいとしたうえで、それが難しい場合の次善の方式も認めています。

道路のマニュアルは今回、アンダーパスの非常用発電設備に限って、年点検では一連の動作を実負荷でと明記しました。どこまでを通しで動かせば「確認した」と言えるのかを、文章で固定したことになります。

マニュアルはアンダーパスの排水設備を、故障したときに道路利用者の安全に直接影響するおそれのある「レベルⅠ」に区分しています。理由は「設備故障により排水機能が停止し路面に冠水が生じた場合、通行車両の没水による道路利用者の安全への影響が想定されるため」です。

このマニュアルの適用範囲は、国が直轄で管理する道路の機械設備です。地方自治体の道路や、工場・ビルの設備に適用を義務づけるものではありません。本記事が後半で工場・ビルへの読み替えを示すのは、点検の考え方として参考になるからです。

03
「排水設備だけに頼らない」ガイドライン

マニュアル改定と同じ10月6日、国土交通省道路局は「アンダーパスにおける冠水事故防止に向けたガイドライン」を策定し、地方整備局などに通知しました。地方公共団体や高速道路会社には、参考にして必要な対策を講ずるよう求めています(地方自治法に基づく技術的助言)。

ガイドラインの基本的な考え方は、冒頭の一文に集約されています。

アンダーパスの冠水事故を防止するためには、排水設備等による冠水防止のみに依存するのではなく、冠水のおそれが高まった段階での予防的な事前通行規制、冠水時における速やかな通行規制及び車両進入防止対策を組み合わせた多重防御により安全を確保することを基本とする。

出典:国土交通省道路局「アンダーパスにおける冠水事故防止に向けたガイドライン」(令和8年10月)1.2[5]

あわせて、停電や設備故障、通信障害で排水設備や進入防止設備の一部が働かない場合にも安全側に移行できるよう、フェールセーフの考え方で設備と運用の両面から対策を講じるとしています。

ガイドラインは各アンダーパスを、被害の履歴や冠水の履歴、幹線道路かどうかで4つに区分し、区分ごとに対応を変えています。

区分 主な該当箇所 通行規制
① 特に高い冠水リスク箇所 人的・物的被害が発生した箇所、冠水履歴のある幹線道路 等 予防的な事前通行規制(物理的)
② 高い冠水リスク箇所 冠水履歴のある幹線道路以外 等 冠水発生時に警告表示、速やかに通行規制(物理的)
③ 一定の冠水リスク箇所 内水浸水想定エリア内 等 冠水発生時に警告表示、速やかに通行規制(物理的)
④ 注意喚起・監視等リスク箇所 内水浸水想定エリア以外 等 冠水発生時に警告表示(情報発信)

出典:同ガイドライン 表1[5]。被害・冠水の履歴は過去5年間を基本とする

設備保全の立場から注目したいのは、次の3点です。

1つめは、設備の異常そのものを通行規制の引き金にしたことです。 3.2.3は、大雨のときに「停電、排水設備の異常停止、監視設備の停止その他の異常」で必要な機能が下がった場合には、冠水の発生を待たずに早期に通行規制をするとし、異常時の判断基準と対応フローをあらかじめ整理しておくよう求めています。設備が止まったことに気づく仕組みと、気づいたあとの手順が、安全対策の一部として位置づけられました。

2つめは、手動での起動を前提に入れたことです。 国土交通省道路局が8月27日に道路管理者へ出した事務連絡「アンダーパスにおける冠水事故防止に向けた当面の対応について」はすでに、「停電等により非常用発電設備が自動起動しない場合も想定し、非常用発電設備及び排水ポンプの手動起動手順を確認するとともに、実動訓練を実施すること」と求めていました。ガイドラインも、進入防止設備や監視設備について、大雨時や停電時を想定した作動確認と、手動操作など代替手段の事前整理を求めています。

3つめは、点検の中身をマニュアルにつないだことです。 第5章「排水機能の確保」は、排水設備や非常用電源の点検・整備・維持管理を、02章のマニュアルなどを踏まえて行うとしています。さらに、停電や故障で必要な機能を確保できない場合は、第3章の通行規制で安全を確保するとしました。設備の点検と、設備が止まったときの運用が、1つの文書の中で接続されています。

アンダーパスの冠水事故防止ガイドラインの多重防御を横並びの3枚の盾で示した図。左から、予防的な事前通行規制(冠水の前に止める)、車両進入防止対策(遮断機・道路情報板・赤色灯・路面標示)、排水機能の確保(排水ポンプ・非常用電源の点検)。全体を貫く帯に、フェールセーフ:停電・設備故障・通信障害でも安全側へ、と書かれ、右下に、設備の異常は早期に通行規制する引き金(3.2.3)との注記がある
排水設備だけに頼らず、3つの対策を重ね、設備が止まっても安全側に倒れるようにする。
出典:国土交通省道路局「アンダーパスにおける冠水事故防止に向けたガイドライン」(令和8年10月)[5]をもとに当社作成

04
地下で止まった設備――水災害調査・対策検討委員会の資料から

アンダーパスの外でも、地下の設備が止まっています。国土交通省は9月15日に水災害調査・対策検討委員会を設置し、9月18日に第1回を開きました。千葉豪雨などによる都市型の内水氾濫への対策を、年内をめどにとりまとめるとしています。

第1回の資料(資料3-1、9月9日時点)には、次のような被害が記録されています。

  • 下水道:菊間終末処理場(市原市)が浸水し、他の処理場への汚泥圧送機能が停止しました(水処理機能への影響はなく、応急復旧済み)。八千代ポンプ場など3つのポンプ場が浸水で機能停止しました(応急復旧済み)
  • マンション:地下に設置された電気設備が浸水して停電が起き、千葉市の多数のマンションで、停電にともなう断水やエレベーターの停止が発生しました
  • 病院:浸水想定区域外であった千葉大学医学部附属病院で、地下にあった排水管やポンプ・電気基板が泥水をかぶって故障し、手術などに支障が出ました。八千代市の病院の記録には、ボイラーと揚水ポンプの冠水、「水道揚水ポンプ使用不可」、透析の中止が並んでいます

国土技術政策総合研究所の現地調査報告(資料3-2)は、病院の地下ピット室や研究センターの地下機械室が浸水したことに触れたうえで、こう指摘しています。

地下施設等への浸水被害が報告された大規模施設(病院やショッピングモール)については、内水浸水想定区域に敷地境界が接しているが、敷地内の浸水想定は必ずしも表現されていない場合もあった。

出典:国土技術政策総合研究所「令和8年8月千葉豪雨等の被害状況 現地調査結果報告」(水災害調査・対策検討委員会 第1回 資料3-2)[10]

理由として、内水浸水想定区域図は航空レーザ測量などによる約2mメッシュの標高データを基にしており、大規模な施設による局所的な地形の改変までは必ずしも表現できない、と説明されています。

内水のリスク情報そのものも、まだ整備の途中です。資料5によれば、令和7年度末時点で、河川の氾濫(外水)の浸水想定区域が100%公表済みなのに対し、内水の浸水想定区域の公表は39%、ハザードマップは32%にとどまります。

ここから読み取れるのは、ハザードマップは出発点であって、自分の敷地のどこに水が集まるかは、敷地の形や建物の配置を知っている管理者が補うしかない、ということです。

05
6年前のガイドラインがすでに書いていたこと

地下の電気設備の浸水には、すでに国の手引きがあります。国土交通省と経済産業省が令和2年6月にまとめた「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」です。きっかけは令和元年東日本台風(台風第19号)で、内水氾濫により首都圏の高層マンションの地下に置かれていた高圧受変電設備が冠水し、エレベーターや給水設備が一定期間使えなくなった被害でした。千葉豪雨のマンションの被害は、これとよく似ています。

ガイドラインの対象は、高圧受変電設備などの設置が必要な建築物です。新築時だけでなく既存建築物の改修時も含みます。建築主や所有者・管理者が専門技術者の支援を受けて、ハザードマップや地形、過去の浸水実績から想定する浸水の規模を決め、守るべき目標水準を設定するところから始まります。

対策は大きく4つに整理されています。

  1. 浸水リスクの低い場所に電気設備を置く(上階への設置)
  2. 建物の中に水を入れない:建物の外周などに「水防ライン」を設定し、出入口のマウンドアップや止水板・防水扉・土嚢、換気口などの開口部を高い位置に設ける、下水道からの逆流を防ぐ、といった対策をライン上の全ての浸水経路で一体的に行う
  3. 電気設備の部屋に水を入れない:防水区画、配管貫通部の止水処理、設備の嵩上げ、耐水性の高い設備の採用
  4. 浸水しても早く戻す:連絡体制や設備関係図面を平時から整え、発災後の排水・清掃・点検・復旧の方法を検討しておく
地上2階・地下1階の建物の断面図に、電気設備の浸水対策を示した図。建物の外周に破線の水防ラインが引かれ、出入口にはマウンドアップと止水板、地下への換気口は高い位置、下水道には逆流防止弁が描かれている。地下の電気室には防水扉と嵩上げ台があり、上階には電気設備を上階へという吹き出しがある。番号は、①上階設置、②建物内に入れない、③電気室に入れない、④早期復旧の4つの対策区分を表す
浸水対策は4つの層で考える。建物の外周に水防ラインを引き、すべての浸水経路を一体でふさぐ。
出典:国土交通省・経済産業省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」(令和2年6月)[11]をもとに当社作成

点検や運用の面で、今回の改定と重なる記述もあります。

  • 脱着式の止水板は、設置方法や必要な機材・人員・タイムラインを関係者で事前に確認し、定期的に設置訓練を実施することが必要としています
  • 電動式の常設止水板は、停電時の起動方法を確認しておく必要があるとしています
  • 非常用電源については、平時から専門技術者による維持管理と、稼働時間を考えた燃料の備蓄・品質管理が必要だとしています。そのうえで、法令で設置が義務づけられる非常用発電機は火災時の避難・消火を前提に必要な稼働時間が決められているため浸水時に想定される時間より非常に短くなること、始動装置には通常連続で3~5回程度の起動能力しか設定されていないことにも注意を促しています
  • 浸水したエリアの回路を切り離し、必要な設備へ速やかに電力を送るために、非常用電源の供給ルートや回路構成、切り離しや切り換えの手順を、電気設備全体を把握したうえで検討しておくことが望ましいとしています

停電したときに、どの回路がどの順で生き残り、何がどこまで動くのか。道路のマニュアルが今回「起動条件」「一連の制御機能」「電源系統」と書いたことと、6年前のガイドラインが求めていたことは、同じ点を見ています。

06
工場・ビルの設備への読み替え

ここまでの国の文書は、いずれも道路や公共施設、または高圧受変電設備をもつ建築物を対象にしています。工場やビルの非常用設備に、今回のマニュアル改定が適用されるわけではありません。非常用発電機などに法令で義務づけられている点検がある場合は、そちらに従う必要があります。

そのうえで、国が自らの設備の点検をどう改めたかは、民間の設備の点検計画を見直す材料になります。次の表は、国の文書が求めていることを、工場・ビルの設備での確認項目に読み替えたものです。

国の文書が求めていること 出典 工場・ビルの設備での確認項目
停電発生から非常用発電設備の起動、排水設備の稼働までの一連の動作を、年点検で原則実負荷により確認する 道路機械設備マニュアル(R8.10改定)[3] 雨水排水ポンプ・湧水ポンプなど停電時にも動かしたい負荷について、停電から発電機の起動、切り換え、ポンプの稼働までを通しで確認した記録があるか
起動条件、一連の制御機能及び電源系統を確認する 同上[3] 発電機がどの信号で起動し、どの回路に給電するのか。ポンプの制御盤が発電機回路に乗っているか、単線結線図で確認できるか
非常用発電設備が自動起動しない場合の手動起動手順を確認し、実動訓練を行う 国交省道路局 事務連絡(2026年8月27日)[7] 自動で起動しなかったときの手動起動・手動切り換えの手順書があり、夜間・休日の当番者が実際に操作したことがあるか
設備の異常時に、冠水を待たず早期に通行規制する。判断基準と対応フローをあらかじめ整理する アンダーパスGL 3.2.3[5] ポンプの停止や停電の警報を誰が受け、何をきっかけに地下の車両移動・立入禁止・止水板設置を始めるかが決まっているか
浸水想定区域図は敷地内の局所的な窪地を表現しきれない場合がある 水災害委 資料3-2[10] 地下ピット、機械室、電気室、地下駐車場の出入口など、敷地内で水が集まる場所を、自社の図面と過去の浸水・滞水の記録から洗い出しているか
水防ラインを設定し、浸水経路を一体的にふさぐ。脱着式止水板は定期的に設置訓練を行う 電気設備浸水対策GL(R2.6)[11] 止水板の保管場所・設置手順・必要人数を決め、年に1回は実際に設置しているか。電動式なら停電時の動かし方を確認しているか
非常用発電機の稼働時間と始動回数の制約を考慮する 同上[11] 浸水時に必要な運転時間に対して、燃料の量と発電機の連続運転の前提が足りているか

この表の右列は、法令上の点検項目を置き換えるものではありません。既存の点検のどこに「つなぎ目」の確認が抜けているかを見つけるための視点として使ってください。

非常用発電機や排水ポンプのように、普段は止まっていて、必要なときにだけ動くことを求められる設備は、劣化や不具合が表に出にくい設備です。本サイトでは河川の排水機場について、同じ性質の設備をAIで監視する取り組みを解説しています(排水機場のAIモニタリング)。

07
民間の動き

SDSホールディングス(東証スタンダード)[14]は10月1日、電気設備工事を手がける子会社の省電舎とグループ一体で「浸水検知通知・防災支援サービス」を始めると発表しました。発表文は、今年の一連の大雨で建物の電気設備そのものが浸水により機能を失い停電や断水が長引いた事例があったとし、「非常用電源設備も設置場所が浸水すれば同様に機能を失うおそれがあります」と書いています。

サービスは3つで構成されています。

  • 浸水検知通知:敷地の出入口や地下駐車場、電気室など浸水しやすい箇所に小型の検知機器を置き、検知した時点で管理者や従業員のスマートフォンなどに通知する。通知には、車両の移動、電源の遮断、止水板の設置など、直ちに取るべき行動を併記する
  • 浸水対策支援:ハザードマップ、過去の浸水履歴、電気設備の設置位置から建物の浸水リスクを診断し、止水板の設置、受変電設備や非常用電源設備のかさ上げ・移設、排水設備の整備などの対策工事を行う
  • 復旧支援:被災後に、受変電設備、分電盤、ポンプ、エレベーターなどの点検・復旧による早期の復電を図る

ただし、浸水検知通知の提供開始時期は、システムの検証・実証実験の結果を踏まえて決めるとしており、発表時点では決まっていません。検知・通知のシステムは外部の実績あるものを使い、同社グループは機器の設置と工事・復旧を担う体制です。

注目したいのは、診断の材料に「電気設備の設置位置」を挙げている点と、通知文に取るべき行動を併記するとしている点です。どちらも、05章のガイドラインが求める「目標水準の設定」と「発災時の適切な対応」に対応しています。設備が止まる前に気づき、気づいたら何をするかまで決めておく、という発想は、03章のアンダーパスのガイドラインとも共通しています。

まとめ

千葉豪雨の村田町アンダーパスには排水ポンプがあり、停電に備えた非常用電源設備もありました。いわき市のアンダーパスにもポンプと水位センサーと看板がありました。国土交通省がまず直したのは設備の数ではなく、点検の範囲です。停電を起点に、発電機の起動から電源の切り換え、ポンプの稼働までを1本の流れとして、年に1回は実際に水を排出する状態で確かめる。そのうえで、設備が止まりうることを前提に、止まったときの判断と手順を先に決めておく。

この2つは、工場やビルの非常用設備にもそのまま当てはまります。非常用発電機の点検記録はあっても、それがどの負荷までを通しで動かした記録なのかを説明できるでしょうか。次の点検計画を立てるときに、確認の範囲を1段広げてみてはいかがでしょうか。

設備・保全担当者が明日からできること

  • 停電時に動かしたい負荷を一覧にする:雨水排水ポンプ、湧水ポンプ、地下の換気、監視カメラ、警報など、停電中も動いてほしい設備を挙げ、それぞれが非常用発電機の回路に乗っているかを単線結線図で確認します。
  • 前回の発電機点検で「どこまで動かしたか」を確認する:発電機単体の運転か、負荷をつないだ運転か、停電を模擬して切り換えまで確認したかを、点検記録で確かめます。記録から読み取れなければ、それ自体が見直しの対象です。
  • 自動起動しなかったときの手順を書き、当番者に一度やってもらう:手動起動と手動切り換えの手順を1枚にまとめ、夜間・休日に対応する人が実際の盤の前で操作を確認します。国の事務連絡が求めた「実動訓練」と同じ考え方です。
  • 敷地内で水が集まる場所を図面に落とす:地下ピット、機械室、電気室、地下駐車場の出入口、過去に水が溜まった場所を、ハザードマップとは別に自社の図面に書き込みます。浸水想定区域図は敷地内の窪地を表現しきれないことがあります。
  • 止水板を実際に設置してみる:保管場所から運び出し、取り付けるまでに何人で何分かかるかを測ります。電動式なら停電時の動かし方も確認します。大雨の予報が出てから初めて設置するのでは間に合いません。

よくある質問(FAQ)

Q. 2026年10月の道路関係設備(機械設備)点検・整備・更新マニュアル(案)の改定で、何が変わりましたか?

A. アンダーパスの排水設備用の非常用発電設備について、確認項目を定めた1項目が追加されました。非常時の起動条件、一連の制御機能及び電源系統を確認すること、停電時に各機器へ電力が確実に供給されることに留意すること、そして年点検の管理運転は、原則として「停電発生から非常用発電設備の起動及び排水設備の稼働までの一連の動作」について実負荷で確認することです。2026年10月6日から運用されています。きっかけは、2026年8月の千葉豪雨で国道16号村田町アンダーパスが、非常用電源設備の不作動が原因と考えられる冠水を起こしたことです。

Q. 管理運転とは何ですか?

A. 設備の作動確認や、装置・機器内部の防錆やなじみの確保などを目的に行う運転です。国土交通省の道路関係設備(機械設備)点検・整備・更新マニュアル(案)は「実負荷運転又はそれに近い総合試運転」と定義し、不具合箇所の発見に有効な点検手法として、特段の理由がない限り定期点検時に実施することを基本としています。河川ポンプ設備のマニュアル(平成27年3月)は「試運転」と定義したうえで、定格に近い全負荷状態での総合運転が望ましいとしています。

Q. 工場やビルの非常用発電機にも、この改定は適用されますか?

A. 適用されません。マニュアルの適用範囲は、国が直轄で管理する道路管理用施設の機械設備で、改定項目もアンダーパスの排水設備用の非常用発電設備に限られています。工場やビルの非常用発電機に法令で定められた点検がある場合は、そちらに従う必要があります。ただし、停電を起点に一連の動作を通しで確認するという考え方は、民間の設備の点検計画を見直す際の参考になります。

Q. アンダーパスの冠水事故防止ガイドラインは、何を求めていますか?

A. 2026年10月に国土交通省道路局が策定したガイドラインは、排水設備等による冠水防止のみに依存せず、予防的な事前通行規制、冠水時の速やかな通行規制、車両進入防止対策を組み合わせた多重防御で安全を確保することを基本としています。停電や設備故障の際にも安全側に移行できるフェールセーフの考え方をとり、アンダーパスを冠水リスクに応じて4区分し、区分ごとに通行規制の方法を整理しています。大雨時に停電や排水設備の異常停止が起きた場合は、冠水を待たずに早期に通行規制をするとしています。

Q. 浸水想定区域の外にある建物なら、地下の設備は安全ですか?

A. そうとは限りません。2026年8月の千葉豪雨では、浸水想定区域外であった千葉大学医学部附属病院で、地下の排水管やポンプ・電気基板が泥水をかぶって故障しました。国土技術政策総合研究所の報告は、内水浸水想定区域図が約2mメッシュの標高データを基にしており、大規模施設による局所的な地形の改変までは必ずしも表現できないと説明しています。また令和7年度末時点で、内水の浸水想定区域の公表は39%にとどまります。敷地内で水が集まる場所は、管理者が自社の図面や過去の記録から確認する必要があります。

Q. 建物の電気設備の浸水対策は、何から始めればよいですか?

A. 国土交通省と経済産業省の「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」(令和2年6月)は、まず浸水想定区域やハザードマップ、地形、過去の浸水実績から想定する浸水の規模を決め、守るべき目標水準を設定することから始めるとしています。そのうえで、電気設備の上階への設置、建物の外周に水防ラインを設定して出入口や開口部・逆流の経路をふさぐこと、電気設備室への浸水防止、浸水後の早期復旧の準備を総合的に行うとしています。脱着式の止水板は定期的な設置訓練が必要とされています。

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