▶ 定義
AI-Ready化とは、データをAIが利活用可能な状態にすることをいう。
これは経済産業省が2026年5月14日の報道発表で用いた定義です(「製造業データ等のAI-Ready化(データをAIが利活用可能な状態にすること)」)。法令で定義された用語ではありませんが、国が研究開発事業の名称として使い、括弧書きで意味を明示している語です。なお「AI-Ready」には、2018年の内閣府の議論に由来するまったく別の用法もあります(後述)。
01 なぜいま「AIそのもの」ではなく「データ側」なのか
この語が国の事業名に出てきた理由は、報道発表の背景説明に書かれています。
データは生産性向上やイノベーション創出の基盤となる重要な資源となっており、これまでAIの性能向上を支えてきたウェブ上の公開データは学習が進みつつあるところ、今後は企業や組織が保有する実データの活用が一層重要となります。
読み替えると、こうなります。ウェブから学べることは学び尽くされつつあり、次に価値があるのは各社の手元にあるデータである。設備の点検記録、故障履歴、運転データ、作業者の判断 ── まさに保全部門が日々つくっているものが、その「実データ」です。
ただし、手元にあることと使えることは別です。AI-Ready化という言葉が指しているのは、持っているデータを「AIが利活用可能な状態」に持っていく作業であって、AIを買ってくることではありません。ここが要点です。
02 国が研究開発費を投じている対象を見ると、内容が具体的に分かる
経済産業省とNEDOは、生成AI開発を支援するGENIACの2026年度からの新規事業として、「製造業データ等をAIが利活用可能な状態(AI-Ready化)とするための課題等の解決に資する手法開発等」を支援することとし、2026年5月14日に9件の研究開発テーマを採択しました。
その採択テーマを見ると、AI-Ready化が具体的に何を指しているかが分かります。設備保全に関係の深いものを抜き出します。
| 採択テーマ | 実施予定先 |
|---|---|
| 製造業における非構造化データの多層的構造化とヒアリングAgentによる暗黙知の形式知化・自律運用プロセスの研究開発 | ストックマーク株式会社 |
| 生産技能者が保有する暗黙知の構造データ化に係る技術開発及び産業汎用性の検証に関する研究開発 | FastLabel株式会社 |
| 巡回型作業における実施品質記述データ基盤の構築 | FairyDevices株式会社 |
| 製造業設計ナレッジの統合的AI-Ready化 ── コンテキスト構造化とマルチモーダルデータ変換 ── の研究開発 | AIONA株式会社 |
注目すべきは、9件のうち複数が「暗黙知」と「巡回型作業」を対象にしていることです。ベテランの判断をどう構造化するか、巡回点検の品質をどう記述するか ── 保全の現場が長年抱えてきた課題が、そのまま国の研究開発テーマになっています。
この事業では「手法の研究開発、当該手法の有用性のための実データを用いた実証・評価、及び知見の公表に向けた支援」を行うとされています。知見の公表が事業の一部に含まれている点は、直接の当事者でない企業にとっても意味があります。手法が公開されれば、自社で応用できる可能性があるということです。
※ 実施予定先はアルファベット・五十音順。事業期間は2026年度から2027年度のうち1年間。NEDO「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」を活用して実施されます。
03 もうひとつの「AI-Ready」── 社会のReadinessという用法
この語には、上の意味とはまったく別の系統の用法があります。混同すると議論が噛み合わなくなるので、区別を押さえておいてください。
2018年6月1日、内閣府の「人間中心のAI社会原則検討会議」(第2回)で、構成員から「AI-Readyとは?」「“AI ready”とは何か?(試案)」という資料が提出されました。そこで論じられているのは、社会全体がAIを受け入れる準備ができているかという問題です。人材の育成、データ利活用の環境、リテラシー、社会構造 ── 対象は国や社会の側にあります。
| 用法 | 何がReadyになるのか | 出所 |
|---|---|---|
| データのReadiness | データ(AIが利活用可能な状態にする) | 経済産業省の報道発表(2026年)。本ページが定義として採るのはこちら |
| 社会のReadiness | 社会・人材・制度 | 内閣府の検討会議に構成員から提出された資料(2018年)。政府が定めた定義ではない |
後者は有識者が会議に提出した意見・試案であり、政府として採択された定義ではありません(一方の資料は表題自体に「試案」と明記されています)。社会論として読む価値はありますが、自社のデータをどう整えるかという実務の話とは別の文脈です。
社内で「AI-Ready化を進めよう」という話が出たときは、データの話なのか、組織や人材の話なのかを最初に確認すると、以後の議論が噛み合います。
※ 内閣府の2資料は本ページ末尾にリンクを掲げています。一方の資料には「不許複製」の表記があるため、本ページでは内容の引用を行わず、そうした用法が存在するという事実の指摘に留めています。
04 自社の設備データをAI-Ready化するとは、具体的に何をすることか
「AIが利活用可能な状態」という定義だけでは、明日やることが決まりません。ここは、すでに公的な段階定義がある枠組みに接続すると具体化できます。
NEDOと経済産業省製造産業局のSMDGは、設備保全にあたる変革課題44について、下から順に次の段階を置いています。
- Lv1 情報の標準化:設備の不具合や不具合発生の影響因子に関する項目が定義されている
- Lv2 情報・データの蓄積:定義された項目に基づきデータが蓄積されている
この2段階が、設備保全におけるAI-Ready化の実体とほぼ重なります。項目が定義されていない記録、設備ごとに追えない記録は、AIから見れば使えないデータだからです。
同じ構造は点群データにも見られます。作業規程の準則は、観測したままの点群データから、点検・調整を経て、地表面だけを残し、格子状に整えるまでを段階として定義しています。取得しただけのデータと、処理を経て使える状態のデータは別物であるという考え方は、分野を問わず共通です。
- 「AIを入れる」より先に「項目を決める」:定義が指しているのはデータ側の整備です。何を記録するかが決まっていない状態では、どんなAIも使えません。
- 自由記述の欄を洗い出す:所見や備考に書かれたベテランの判断は、いまのままでは非構造化データです。国の採択テーマが「暗黙知の形式知化」「非構造化データの多層的構造化」を狙っているのは、ここが最大の難所だからです。
- 巡回点検の記録形式を見直す:「巡回型作業における実施品質記述データ基盤の構築」が国の研究テーマになっています。異常なしをどう記録するか、判断の根拠をどう残すかは、まだ標準が無い領域です。
- 設備を一意に特定できるようにする:同じ設備が記録ごとに別の呼び名で書かれていると、データを突き合わせられません。地味ですが、これが無いと先に進めません。
- 研究成果の公表を待つ姿勢も有効:この事業には知見の公表に向けた支援が含まれています。自社で手法を一から考えるより、公表を追ったほうが早い部分があります。
よくある質問
Q. 「AI-Ready」は公的に定義された言葉ですか。
A. 法令上の定義はありません。ただし経済産業省が2026年5月14日の報道発表で「AI-Ready化」を「データをAIが利活用可能な状態にすること」と括弧書きで明示しており、国の研究開発事業の名称として使われています。本ページはこれを定義として採っています。一方、2018年に内閣府の検討会議へ提出された資料では、社会全体のAI対応度を指す別の用法で使われました。そちらは有識者の意見・試案であり、政府が定めた定義ではありません。
Q. データを全部デジタル化すれば、AI-Ready化したことになりますか。
A. なりません。紙をスキャンしてPDFにしても、AIが利活用可能な状態には届かないことが多いためです。国の採択テーマに「非構造化データの多層的構造化」「暗黙知の構造データ化」が並んでいるのは、デジタル化と構造化が別の作業だからです。設備保全でいえば、点検記録がExcelにあること自体は出発点であって、どの設備の・どの部位の・何を測った値なのかが項目として定義され、時系列で追える状態になって初めて次に進めます。
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なお、AI-Ready化の出発点は「どの設備の、どの項目を、どんな形式で記録するか」を決めることです。設備台帳と点検記録が別々に管理されていると、この項目定義そのものが成立しません。本サイトを運営する有限会社エコニティは、設備台帳・点検・部品管理をまとめて扱える無料の設備管理システム「設備管理の匠WEB版」を提供しています。