▶ 定義
予知保全とは、部品の劣化状態を異音・振動・温度等の変化から判断し、一定以上の劣化を確認した時点で設備のメンテナンスや部品交換を行うことにより、故障を予防する保全方法である。
英語表記は Predictive Maintenance。厚生労働省の資料は、この内容を「状態基準保全」として定義したうえで「状態基準保全は故障のきっかけを捉えて対策を講じるので『予知保全』ともいわれる」と記しています。つまり行政資料における予知保全は、状態基準保全(CBM)の別名です。一方、実務では「AIで故障を予測する段階」を指して予知保全と呼ぶ用法も広く使われており、この2つは同じ言葉で違う段階を指しています。本ページではその差を整理します。
01 厚生労働省の整理 ── 予知保全は「予防保全の一種」
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署がまとめた「設備の経年化による労働災害リスクと防止対策」は、保全を次のように区分しています。
| 区分 | 資料の定義 |
|---|---|
| 予防保全 ①時間基準保全 |
設備の使用期間を設定し、定期的に設備のメンテナンスや部品交換を行うことにより、故障を予防する保全方法 |
| 予防保全 ②状態基準保全 (=予知保全) |
部品の劣化状態を異音、振動、温度等の変化から判断して、一定以上の劣化を確認したら、設備のメンテナンスや部品交換を行うことにより、故障を予防する保全方法 |
| 事後保全 | 故障、異常が発生してから対応する保全。未然に故障、異常を防ぐことはできない |
要点は2つです。第一に、予知保全の対義語は事後保全ではなく、同じ予防保全のなかの時間基準保全である、ということ。第二に、この資料が予知保全に求めているのはAIでも予測でもなく「劣化を判定する要素を決め、基準を設定すること」だという点です。同資料は「時間基準保全は、部品寿命を見極める必要がある。一方、状態基準保全では『部品劣化』を判定する要素を決め基準を設定する必要がある」と述べています。
この整理はCBM(状態監視保全)とTBM(時間計画保全)の関係とそのまま重なります。行政資料の文脈では、予知保全とCBMはほぼ同じものを指していると考えて差し支えありません。
02 もう一つの用法 ── 「予測」まで含める場合
製品カタログや業界記事では、予知保全を「蓄積データから故障の発生時期やリスクを予測し、壊れる前に手を打つこと」という、より進んだ意味で使うことがあります。この用法は、単に現在の状態を見る状態基準保全よりも一段上の段階を指しています。
この段差を公的な形で言語化しているのが、NEDOと経済産業省製造産業局が公開するスマートマニュファクチャリング構築ガイドライン(SMDG)です。設備保全にあたる変革課題44「設備不具合の予兆を検知し、安定稼働を維持する仕組み」には、次の5段階が定義されています。
| レベル | 到達している状態 |
|---|---|
| Lv1 情報の標準化 |
設備の不具合や不具合発生の影響因子に関する項目が定義されている |
| Lv2 情報・データの蓄積 |
定義された項目に基づきデータが蓄積されている |
| Lv3 データによるプロセスの連携 |
蓄積されたデータに基づき、設備の状態に基づく保全が行われている |
| Lv4 多頻度解析による最適化 |
データから不具合の発生リスクを予測し、不具合未然防止に向けた対処を検討・実施することができる |
| Lv5 現実との双方向連携 |
不具合の発生リスクを予測し、未然防止のための最適な対処内容が指示される |
厚生労働省が予知保全と呼んでいるのはLv3、実務で「AIによる予知保全」と呼ばれることが多いのはLv4以上です。同じ言葉が2段階ぶん離れた状態を指すため、社内の議論では「予知保全をやるか」ではなく「Lv3を目指すのか、Lv4を目指すのか」と言い換えたほうが噛み合います。
※ SMDGの本文および別紙リファレンスには「予知保全」「CBM」「TBM」という語は登場せず、「設備の状態に基づく保全」と記述されています。本ページでの対応づけは、記述内容が一致することによるものです。
03 予知保全が止まる場所は、たいていセンサーの手前にある
SMDGの5段階を素直に読むと、予知保全の前段にはLv1「不具合の影響因子に関する項目が定義されている」とLv2「定義された項目に基づきデータが蓄積されている」という2つの段階が置かれています。順序が示しているのは、次の事実です。
- 何を測るかが決まっていなければ、センサーは付けられない。振動なのか、温度なのか、電流値なのか。対象部位と項目の定義がLv1です。
- 測っても貯まらなければ、傾向は見えない。値が点検表の紙に残り、担当者の手元で止まっていれば、Lv2に届いていません。
- 貯まって初めて、状態で判断できる。Lv3の「設備の状態に基づく保全」は、蓄積されたデータがあることを前提にしています。
SMDGは、多くの国内製造事業者にとって「レベル2、レベル3の実現が当面の変革課題の重点」であり、Lv4に挑むのは競争優位の中核となる領域に限られる、とも述べています。いきなりLv4を狙う必要はない、というのが国のガイドラインの立場です。
- 社内で「予知保全」の意味をそろえる:Lv3(状態を見て判断する)とLv4(リスクを予測する)のどちらを指しているのか。ここが揃っていない会議は、予算の話に入る前に噛み合わなくなります。
- まず影響因子を書き出す:主要設備1台について「どんな不具合が起きるか」「その前に何が変化するか」を紙に書く。これがLv1で、費用はかかりません。
- 判定基準を数字で置く:厚生労働省の資料が求めているのは「劣化を判定する要素を決め、基準を設定すること」です。しきい値のない測定は記録であって保全判断ではありません。
- 既存の点検記録がLv2に届いているか確かめる:値が設備ごとに時系列で追えるか。紙やファイル単位で分散していれば、そこが最初のボトルネックです。
よくある質問
Q. 予知保全と予防保全は、別のものですか。
A. 別のものではありません。予知保全は予防保全の一種です。厚生労働省の資料は保全を「予防保全(時間基準、状態基準)」と「事後保全」に大きく分けたうえで、状態基準保全について「故障のきっかけを捉えて対策を講じるので『予知保全』ともいわれる」と説明しています。予防保全の対になるのは事後保全であり、予知保全ではありません。
Q. AIやセンサーを導入すれば予知保全になりますか。
A. 順序が逆になりやすい点に注意が必要です。SMDGの5段階では、設備の状態に基づく保全(Lv3)の手前にLv1「設備の不具合や不具合発生の影響因子に関する項目が定義されている」とLv2「定義された項目に基づきデータが蓄積されている」が置かれています。何を異常とみなすかが決まっていなければ、集めたデータは判断に使えません。機器の選定より先に、対象部位・観測項目・しきい値を決めるのが実際の第一歩です。
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変革課題44の5段階の全体像と、これに紐づくNEDOの研究開発事例を解説しています。
Lv4以上でAIを使うために、その前提として何を整えておく必要があるかを国の戦略側から解説しています。
予知保全の入口はLv1とLv2、すなわち「影響因子の定義」と「設備ごとのデータ蓄積」です。点検記録が紙やExcelに分散したままでは、測った値が時系列でつながらず、状態で判断する段階に進めません。本サイトを運営する有限会社エコニティは、設備台帳・点検・部品管理をまとめて扱える無料の設備管理システム「設備管理の匠WEB版」を提供しています。