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ストックマネジメント

▶ 定義

ストックマネジメントとは、持続可能な事業の実現を目的に、明確な目標を定め、膨大な施設の状況を客観的に把握・評価し、長期的な施設の状態を予測しながら、施設を計画的かつ効率的に管理することをいう。

英語表記は Stock Management。上の定義は国土交通省「下水道事業のストックマネジメント実施に関するガイドライン」1.1.1の条文(下水道事業について定めたもの)を土台にしています。同ガイドラインは「点検・調査、修繕・改築を一体的に捉えて」管理するものと説明しており、点検して終わりではなく、直すところまでを1つの回路として設計するのが要点です。資金・人材・情報まで含めて扱うアセットマネジメントとの違いも後述します。

01 何を最適化するのか ── 「施設全体」が主語

ガイドラインは目的を次のように書いています。読むときは主語に注目してください。

ストックマネジメントは、長期的な視点で下水道施設全体の今後の老朽化の進展状況を考慮し、リスク評価等による優先順位付けを行ったうえで、施設の点検・調査、修繕・改築を実施し、施設全体を対象とした施設管理を最適化することを目的としている。

「1つの設備を長持ちさせる」話ではありません。限られた予算と人員のなかで、どの施設から手を付けるかを決めるための枠組みです。だからリスク評価が中心に置かれます。

ガイドラインはリスクを JIS Q 0073 の定義(目的に対する不確かさの影響)に沿って扱い、その大きさを「事故・故障の発生確率」と「事故・故障が発生したときの被害規模」の組み合わせで評価するとしています。壊れやすさだけでも、重要さだけでもなく、掛け合わせて順番を決めるということです。

02 実施フローは9段階

ガイドライン 2.1.1 が示す実施フローです。自社・自団体の取り組みがどこで止まっているかを当てはめてみてください。

段階 内容
① 施設情報の収集・整理 以降のすべてに必要な情報を集めて整理する(現状の把握)
② リスク評価 リスクを特定し、施設の重要度に基づく被害規模(影響度)と発生確率(不具合の起こりやすさ)を検討する
③ 施設管理の目標設定 事業の目標(アウトカム)と事業量の目標(アウトプット)を設定する
④ 長期的な改築事業のシナリオ設定 改築周期や健全度・緊急度を基にした条件を踏まえ、事業費を考慮したシナリオを設定する。地震対策・浸水対策等の他の計画との調整、広域化・共同化による統廃合も考慮する
⑤ 点検・調査計画の策定 頻度・優先順位・単位・項目の基本方針を定め、概ね5~7年程度を対象に実施計画を作る
⑥ 点検・調査の実施 計画に基づいて実施する
⑦ 修繕・改築計画の策定 調査結果を診断し、対策の必要性と優先順位を整理。修繕か改築か、更新か長寿命化対策かを含めて概ね5~7年程度の実施計画を作る
⑧ 修繕・改築の実施 計画に基づいて実施する
⑨ 評価と見直し 5~7年程度を目安に実績を評価。目標未達や計画値と実績値の乖離があれば原因を分析し、目標値・計画値を見直す

⑨で①に戻る循環構造になっており、ガイドラインは「施設情報を蓄積し、ストックマネジメントの精度向上を図る」と述べています。初回から精度の高い計画を作る必要はないという前提で設計されている点は、着手をためらっている現場にとって重要です。

あわせて「これらの取組みは、組織全体で方向性を共有することが重要である」とも書かれています。担当者1人の作業では回りません。

03 アセットマネジメントとの違い、用語の使い分け

両者はしばしば同じ意味で使われますが、ガイドラインは明確に区別しています。

用語 扱う範囲
ストックマネジメント 点検・調査や修繕・改築による施設管理に着目したもの
アセットマネジメント 上記に加え、施設管理に必要な経営管理、執行体制の確保を含めたもの。ガイドラインの脚注は「アセット」を「ストックマネジメントで対象とする施設資産のほか、資金、人材、情報等」と定義している

つまりストックマネジメントはアセットマネジメントの一部という関係です。「予算も人も足りない」という話まで含めたいならアセットマネジメント、施設の点検と修繕の回路を組む話ならストックマネジメント、と使い分けると議論が混ざりません。

「修繕」と「改築」の線引きは決まっている

ガイドライン 1.1.4 は主要な用語を定義しています。とりわけ現場で混同されやすいのが次の3つです。

用語 定義
改築 更新または長寿命化対策により、所定の耐用年数を新たに確保するもの。更新=既存の施設を新たに取替えること/長寿命化対策=既存の施設の一部を活かしながら部分的に新しくすること
修繕 老朽化・故障・損傷した施設を対象に、所定の耐用年数内において機能を維持させるために行われるもの
維持 運転、保守、点検、調査、清掃等、機能を保持するための事実行為で工事を伴わないもの。下位に保守/点検/調査/診断が置かれる

「点検」は異状の有無を確認すること、「調査」は定量的に劣化の実態や動向を確認すること、「診断」は点検・調査結果を踏まえ健全度や緊急度を判定すること ── と役割が分けられています。点検と調査を混ぜて呼んでいると、⑦の修繕・改築計画で判断材料が足りないことに気づく、という事故が起きます。

なお同ガイドラインは予防保全を「状態監視保全」と「時間計画保全」に分けて定義しており、これはCBM(状態監視保全)とTBM(時間計画保全)と同じ整理です。ストックマネジメントは、保全方式の選択をこの体系の上で行います。

04 下水道以外で使うとき

「ストックマネジメント」という語が最も体系的に整備されているのは下水道分野です。ガイドラインの適用対象も管路・ポンプ場・処理場と明記されています。

ただし定義そのもの(目標を定め、状況を客観的に把握・評価し、長期的な状態を予測して計画的・効率的に管理する)は施設の種類に依存しません。農業水利施設では農林水産省が「機能保全」の体系で同種の考え方を整備しており、道路・橋梁分野ではインフラ長寿命化計画の枠組みが対応します。分野をまたいで引用する場合は、下水道分野のガイドラインの定義であることを添えるのが正確です。

※ 国土交通省は令和6年7月に「下水道事業における事業マネジメント実施に関するガイドライン -2024年版-」を公表しており、経営や広域化まで含めた枠組みが別途整備されています。施設管理の手法としてのストックマネジメントは、2015年版ガイドライン(令和4年3月改定)が引き続き現行です。

担当者が明日からできること
  • ①で止まっていないか確認する:リスク評価に進めない最大の理由は、施設情報が揃っていないことです。台帳に建設年度・構造・過去の点検結果が入っているか。ここが実質的な出発点です。
  • 重要度と壊れやすさを別の列で持つ:リスクは「発生確率」と「被害規模」の組み合わせです。台帳に1つの総合評点しか無いと、順番を組み替えられません。2つに分けて記録してください。
  • 点検・調査・診断を用語として分ける:記録の表題を「点検」で統一していると、定量値のある調査結果が埋もれます。ガイドラインの定義に合わせて呼び分けるだけで、後工程が楽になります。
  • 5~7年の計画期間に合わせる:点検・調査計画も修繕・改築計画も、評価と見直しの周期も概ね5~7年が目安とされています。単年度予算の話と、この周期の話を分けて資料を作ると通りやすくなります。

よくある質問

Q. 施設情報が不完全でも、ストックマネジメントは始められますか。

A. 始められる前提で設計されています。実施フローの最後は「評価と見直し」で、ガイドラインは「施設情報を蓄積し、ストックマネジメントの精度向上を図る」と述べています。また「ここに記載されている内容以外に、各地方公共団体の実情やPDCAの実践に基づく創意工夫等を妨げるものではない」とも明記されています。完璧な台帳を作ってから着手するのではなく、回しながら精度を上げるのが想定されている進め方です。

Q. ストックマネジメントとアセットマネジメントは、どちらを使えばよいのですか。

A. 話の範囲で選びます。ガイドラインはアセットマネジメントを「施設管理に必要な経営管理、執行体制の確保を含めた」ものと位置づけ、そのうち点検・調査や修繕・改築による施設管理に着目した部分をストックマネジメントとしています。予算確保や人員体制まで論点に含めるならアセットマネジメント、点検から修繕までの回路を組む実務ならストックマネジメントが正確です。

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なお、実施フローの起点である「施設情報の収集・整理」と、リスク評価に必要な重要度・劣化状況の記録は、設備台帳と点検記録が1か所に揃っていることが前提になります。本サイトを運営する有限会社エコニティは、設備台帳・点検・部品管理をまとめて扱える無料の設備管理システム「設備管理の匠WEB版」を提供しています。

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