下水道管路の点検が「全部同じ」をやめる。重要管路は10年、弱点は3年か5年に1回以上に
この記事の要点
- 国土交通省の「下水道管路マネジメントのための技術基準等検討会」は2026年10月5日、検討とりまとめを公表しました。管路を「重要管路」と「重要管路以外の管路」に分けて「メリハリ」をつけるのが柱です。重要管路は、腐食などの弱点がある要注意箇所を3年または5年に1回以上、それ以外も10年に1回以上、管の中に入れて撮影するテレビカメラなどで、すべて点検します。
- 診断の物差しは、対応の急ぎ具合を示す「緊急度」から、施設の状態を示す「健全度Ⅰ~Ⅳ」に替わります。旧区分は「Ⅰ」が最も重く、新区分は「Ⅳ」が最も重いので、番号の向きが逆です。健全度Ⅲの箇所は点検の間隔を縮め(例:3年に1回→1~2年に1回)、道路管理者と調整して路面下の空洞調査も行います。
- 重点的に点検する管路は、施設の配置・診断年月日・診断結果・対策内容を1年に1回以上、地図にしてインターネットで公表することが必須とされました。ただし、とりまとめはまだ法令ではありません。国の日程では、政省令・告示の公布が年内、施行が令和9年1月中の予定です。
01
何が決まったのか──とりまとめの位置づけと施行までの日程
きっかけは、2025年1月28日に埼玉県八潮市で起きた道路陥没です。下水道管路の破損が原因で、トラック1台が巻き込まれて運転手が亡くなり、約120万人に下水道の使用自粛が求められました。国土交通省が設けた「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」は、令和7年5月の第2次提言で、点検・調査の重点化や管路の二条化などによるリダンダンシーの確保を打ち出しました。この提言を具体的な基準にするために、同年8月に設置されたのが今回の検討会です[1][8]。
検討会の委員長は日本大学生産工学部の森田弘昭教授で、大学・自治体・業界団体の委員11名で構成されています。事務局は国土交通省の上下水道審議官グループ、国土技術政策総合研究所、日本下水道協会です。令和7年8月から令和8年9月25日まで8回の会合を重ね、2026年10月5日に検討会のページで「検討とりまとめ」の本文と概要が公表されました[1][2][5]。
法律の側は先に動いています。「下水道法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第65号。詳しくは用語集「改正下水道法(2026年改正)」)は2026年7月23日に公布され、災害時に都道府県が市町村の復旧工事を代行できる制度だけが8月17日に先行施行されました[7](当サイトの解説記事「改正下水道法が動き出した」)。残りの規定は、法律の附則で「一部を除き、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日」から施行されます[6]。改正法には、維持修繕の技術上の基準に「施設の安全性の評価に関する基準」を含めること、構造は点検・修繕・改築や災害時の応急措置のしやすさを考慮したものでなければならないこと、工事と維持管理の状況を国土交通省令で定める事項についてインターネット等で公表しなければならないこと、点検に道路管理者の協力を得られる仕組みなどが盛り込まれています[6]。
とりまとめは、これらの規定の中身を決めるための材料です。本文は「国の技術基準等」を3層で整理しています[1]。
- 法令:下水道法、施行令(政令)、施行規則(省令)、告示。維持修繕基準や構造基準を定める
- 下水道管路マネジメントに関する技術的助言(新たに位置づける): 法令に準じて全国で統一的に実施する事項と、その解説
- ガイドライン・指針:国土交通省のガイドラインや日本下水道協会の指針。技術的助言の運用を支える具体的な考え方や手法の例示
日本下水道協会は、国が示す技術基準等の運用を支える手引きをまとめるため、専門委員会を設けています[1]。
今後の日程は、第8回会合(9月25日)の資料で「年内 政省令告示の公布」「令和9年1月中 政省令告示の施行」とされています。いずれも「予定」です[3]。2026年10月14日時点で、国土交通省の10月の報道発表一覧に政省令の公布の発表は見当たりません。なお10月19日には、改正法で新たに国が定めることになった「下水道の整備及び基盤の強化に関する基本的な方針(案)」が、上下水道政策の基本的なあり方検討会の議題に上がっています[11][6]。
とりまとめは検討会の報告であって、その数字がそのまま義務になったわけではありません。 どの項目が政令・省令・告示になり、どれが技術的助言やガイドラインにとどまるかは、とりまとめには書かれていません。以下では「とりまとめが示した基準の案」として読んでください。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 重要管路 | 事故が起きたときの社会的影響が大きい管路。処理場から直前の最終合流地点までの管路、流域下水道の管路、管径2m相当以上の大口径管路、緊急輸送道路・軌道・河川の下の管路のいずれかに当たるもの(マンホールを含む。詳しくは用語集「重要管路」) |
| 要注意箇所 | 腐食しやすい(化学的弱点)、マンホールとの接続部で壊れやすい(力学的弱点)、土砂を引き込みやすい(地盤的弱点)など、とくに注意して点検する箇所。重要管路以外の管路では化学的弱点箇所が対象 |
| 重点点検管路 | 重要管路と、重要管路以外の管路の要注意箇所を合わせた呼び方。国の技術基準等で点検頻度を定め、公表の対象になる |
| 健全度 | 診断の結果を、施設の状態に応じてⅠ(健全)~Ⅳ(緊急措置段階)に区分したもの。これまでの「緊急度」に替わる(詳しくは用語集「健全度(下水道管路)」) |
| 診断保留 | 十分な点検ができないなどで、明確な診断が難しい状態。新たに設けられた区分 |
| リダンダンシー | 一部の区間が使えなくなっても全体の機能が止まらないようにする多重性。下水道管路では、複線化などで水位を下げて点検や改築をできるようにすることも含む |
02
「重要管路」を先に決める
とりまとめの出発点は、全国特別重点調査の結果です。八潮市の事故と同種の事故を防ぐため、管径2m以上で布設後30年以上の管路を対象に、各自治体が実施しました。令和8年6月末時点で、対象535団体(約5,332km)のうち、291団体(約218km)に緊急度Ⅰと判定された管路がありました。都道府県が管理する流域下水道でも、対象33団体のうち21団体に緊急度Ⅰの管路があります。本文はこれを「一部の地方公共団体だけの例外的な状況ではなく、重大な事態として捉えるべき」と書いています[1]。
一方で、管路は膨大です。そこで、すべての管路を同じやり方で点検するのをやめ、事故時の社会的影響に応じて差をつけることにしました。とりまとめはこれを「メリハリ」と呼んでいます[1]。
全ての管路について同一の点検の仕方とするのではなく、管路の区別に応じて差異(強弱)を明確につける
出典:国土交通省 下水道管路マネジメントのための技術基準等検討会「下水道管路マネジメントのための技術基準等に関する検討とりまとめ」p.16[1]
重要管路は、次のいずれかに当たる管路です。重要管路の上にあるマンホールも含みます[1]。
- 下水処理場から、処理場の直前の最終合流地点までの管路
- 流域下水道の管路
- 管径2m相当以上の大口径管路
- 緊急輸送道路の下、軌道の下、河川の下の管路
最初の2つは、令和6年9月の通知で「急所施設」(その施設が機能を失えばシステム全体が機能を失う最重要施設)とされたものです。2m相当以上は全国特別重点調査と同じ線引きで、道路・鉄道・河川の下は事故時の影響の大きさから設定されています[1]。
重要管路以外の管路は、住宅地などに面的に広がる小口径の管路や、末端の取付管です。こちらは自治体がリスク評価に基づいて点検の時期を決め、取付管は本管の改築に合わせて更新したり、一部で不具合が出たらエリア単位でまとめて更新したりする、という考え方も示されました[1]。軽く扱うという意味ではありません。本文は、過去の統計で下水道管に起因するとみられる道路陥没の5割以上が取付管に起因していることも示しています(とくに陶製の取付管)[1]。ここでの「事後保全」は一般的な意味とは違い、「管のつまりや路面変状等の不具合を察知することで陥没等を防ぐ考え方」と注記されています[1]。
03
点検頻度は3年・5年・10年
重要管路と、重要管路以外の要注意箇所は、テレビカメラ等で全数点検します。ここでいうテレビカメラは、管の中に入れて内面を撮影する点検用のカメラのことです。とりまとめも「従来行われてきた潜行目視やテレビカメラによる視覚的な点検」と書いているとおり、人が管に入って目で見る方法と並ぶ、従来からの点検方法です[1]。重要管路では、人やテレビカメラによる点検に管厚測定などの定量点検を加えるとされました[1][2]。頻度は次のとおりです[1]。
表1 点検頻度の区分(検討とりまとめの基準案)
| 区分 | 該当する箇所 | 頻度 |
|---|---|---|
| 重要管路の「特に注意すべき箇所」 | 化学・力学・地盤的弱点の3つすべてに当たる箇所/年間平均の硫化水素ガス濃度が50ppm以上の箇所(腐食しやすい材料で造られ、防食措置が無いもの) | 3年に1回以上 |
| 重要管路の「注意すべき箇所」 | 化学的弱点箇所/力学的弱点箇所/地盤的弱点箇所 | 5年に1回以上 |
| 重要管路の上記以外 | ─ | 10年に1回以上 |
| 重要管路以外の要注意箇所 | 化学的弱点箇所 | 5年に1回以上 |
| 重要管路以外の上記以外 | ─ | 自治体がリスク評価等に基づいて設定 |
出典:[1]p.19~27をもとに当社整理

出典:国土交通省「下水道管路マネジメントのための技術基準等に関する検討とりまとめ」(令和8年10月)[1]p.16~27をもとに当社作成
「5年に1回」は新しいルールではない
ここは誤解しやすいところです。腐食のおそれが大きい箇所を5年に1回以上点検することは、とりまとめ自身が「現行の頻度(5年に1回以上)」と書いているとおり、すでにあるルールです[1]。当サイトの別記事「なぜ下水道は『見つけても直せない』のか」で整理したように、2015年の維持修繕基準から続いています。今回新しいのは、次の点です。
- 重要管路という区分を設け、弱点が重なる箇所や硫化水素濃度が特に高い箇所は3年に1回以上に縮めたこと
- 弱点の無い区間も含め、重要管路は10年に1回以上の全数点検としたこと
- 弱点の種類に、腐食(化学的弱点)だけでなく、マンホールとの接続部(力学的弱点)と、土砂を引き込みやすい地盤(地盤的弱点)を加えたこと
- 健全度Ⅲの箇所は、さらに頻度を上げること(04章)
5年という間隔の根拠についても、本文は説明しています。国総研の研究で、腐食が表に出てから管が危機的な状態に至るまでの期間の半分で点検が必要と仮定して求めた最低限の頻度だということです。そのうえで、硫化水素濃度が特に高い箇所は「5年に1回以上よりもさらに短い間隔で点検することも検討すべき」と書いており、これが3年の区分につながっています[1]。
3つの弱点はどこか
- 化学的弱点箇所:下水中に溶けた硫化物が生まれやすい条件(圧送管などの嫌気状態)と、硫化水素が空気中に出やすい条件(落差の大きい箇所など)が重なると、硫化水素が硫酸に変わってコンクリートを侵します。本文は該当箇所として、圧送管の吐出し先、伏越しの下流、汚泥がたまりやすい箇所、落差・段差の大きい箇所、ビルピット排水が排出される箇所、溶存硫化物や硫酸塩を多く含む特殊排水が排出される箇所などを挙げています。設計上の計画流量ではなく、実際の流量など現実の状態で判断することとされました[1]
- 力学的弱点箇所:重要管路のマンホールと管きょの接続部です。地震などで力が均等にかからず、壊れて陥没につながるおそれがあります。継手の可とう化などで耐震性能がある箇所は除きます[1]
- 地盤的弱点箇所:地下水位が高く砂質土の地盤にある重要管路で、直近の詳細点検で浸入水・破損・クラック・継手ズレのいずれかにより健全度ⅡまたはⅢと診断された箇所です。管が壊れて空洞ができると、急速に土砂を引き込んで陥没につながるおそれがあります。土質の資料が無い場合は、液状化危険度マップを使って簡易的に把握する方法も示されました[1]
重要管路の化学的弱点箇所では、年間平均の硫化水素ガス濃度を測ることになります。少なくとも夏と冬に、連続して測れる拡散式の測定器を使います。本文は、ビルピットや特殊排水の排出先のように、年間平均が低くても瞬間的に100ppmを超える箇所があることにも注意を促しています[1]。
04
「緊急度」から「健全度」へ──番号の向きが逆になる
診断の物差しも替わります。これまでの診断は、対応の基準を示す「緊急度」で、マンホールとマンホールの間(スパン)を単位にしていました。これを、施設の状態を示す「健全度」に替え、異状のある箇所ごとに診断します。異状は局所的に起きることが多いためです[1]。
表2 診断区分の新旧
| 新:健全度 | 状態 | 旧:緊急度 |
|---|---|---|
| Ⅳ 緊急措置段階 | 構造物の安全性が低下する、又は低下する可能性が著しく高く、緊急に改築等の措置を講ずべき状態 | Ⅰ 重度:速やかに措置が必要 |
| Ⅲ 早期措置段階 | 構造物の安全性が低下する可能性があり、早期に改築等の措置を講ずべき状態 | Ⅱ 中度:簡易な対応により必要な措置を5年未満まで延長できる |
| Ⅱ 要監視段階 | 構造物の安全性が低下していないが、異状の進行等を監視する必要があり、措置を講ずることが望ましい状態 | Ⅲ 軽度:簡易な対応により必要な措置を5年以上に延長できる |
| Ⅰ 健全 | 構造物の安全性が低下していない状態 | 劣化なし |
| 診断保留 | 十分な点検ができない等、明確な診断が難しい状態 | (区分なし) |
出典:[1]p.9「下水道管路の診断区分の見直し(案)」をもとに当社作成。表の横の並びは対応関係を示すものではない
注意したいのは、旧区分は「Ⅰ」が最も重く、新区分は「Ⅳ」が最も重いことです。「緊急度Ⅰ」と「健全度Ⅰ」は正反対の意味になります。本文は、緊急度を健全度へそのまま読み替えることは「不可」としています。旧基準の結果を使って統計的に劣化を予測する場合などに限り、異状箇所ごとのランク評価を、ランクA・a→健全度Ⅳ、B・b→Ⅲ、C・c→Ⅱと読み替えられる、という扱いです。旧基準の結果を新基準に見直すときは、点検当時の画像などで再診断します[1]。

出典:国土交通省「下水道管路マネジメントのための技術基準等に関する検討とりまとめ」(令和8年10月)[1]p.9・11・12・19をもとに当社作成(文言は要約)
健全度ごとの対応
本文は、診断結果に応じた「対応の考え方」を、最低限実施すべき事項として示しています[1]。
- 健全度Ⅳ:緊急に改築を実施し、健全度Ⅰにすることを基本とする。緊急の改築が難しい場合は、改築までの間、道路陥没等を防ぐための地盤改良などを実施する
- 健全度Ⅲ:異状の進行を抑える応急措置をしたうえで、詳細点検の頻度を増やし、改築を行うべきタイミングを適切に判断する
- 健全度Ⅱ:応急措置をしたうえで、計画的に詳細点検を実施する
- 健全度Ⅰ:引き続き計画的に点検する
- 診断保留:明確な診断ができるよう点検方法の高度化を含めて様々な方法を試し、それまでの間は継続的な巡視や路面下空洞調査、地盤改良、水量の少ない夜間に短時間でできる修繕などで当面の安全を確保する。新しい技術を使っても判断できない場合は、改築や複線化などを行う
重要管路で健全度Ⅲと診断され、その状態が続いている箇所は、点検の頻度をさらに上げます。目安は、10年に1回→5年に1回、5年に1回→2~3年に1回、3年に1回→1~2年に1回(いずれも「以上」)です。本文は理由を、点検頻度は劣化の無い管が改築の必要な状態に至るまでの期間から算出しているので、すでに健全度Ⅲの管は次の点検までに劣化が早く進み、最悪の場合は陥没に至るおそれがある、と説明しています[1]。
重要管路で健全度ⅢまたはⅣの異状が見つかったときは、管路に起因する空洞の有無を確かめる空洞調査を行います。実施箇所・頻度・時期は道路管理者と調整し、陥没のおそれがあれば速やかに情報を共有して、必要な措置を協議します[1]。全国特別重点調査では、埋設深が2m以浅なら路面からの空洞調査、それより深ければ地上からの簡易な貫入試験(サウンディング試験)か管路内からの空洞調査、という考え方で行われました[1]。逆に健全度ⅠやⅡでも、重要管路では見逃しが無いよう、強度や形状など特性の違う複数の手法を組み合わせて安全性を確かめるとされています[1]。
診断の基準も細かくなった
鉄筋コンクリート管では、これまで腐食・たるみ・クラックなどの組み合わせで判定していたため、単独の項目で著しい異状が見つかっても緊急度Ⅰにならない場合がありました。新しい基準では、診断項目ごとに、最も異状の程度が著しいもので健全度を決めます[1]。
また、「腐食」を一括りにせず、「硫化水素による腐食」と「それ以外の腐食等」(中性化・塩害による鉄筋腐食、摩耗・風化)に分けて診断します。見分けるために、点検時に硫化水素ガス濃度や管壁のpHを測ります。健全なコンクリートはpH12~13の強アルカリ性で、硫酸で腐食しているとpHが下がるので、管壁の湿った部分にpH試験紙を当てて色を読む方法が有効とされています[1]。硫化水素による腐食の基準には、腐食の進行速度が年5mm以上なら健全度Ⅲ、年3~5mmなら健全度Ⅱという速さの物差しも入りました[1]。
修繕との関係も整理されています。健全度ⅡまたはⅢの破損・クラック・浸入水に対して、JIS規格や審査証明などで耐力・機能の回復が確認された材料や工法を使い、適切な施工管理をした修繕は、健全度Ⅰ相当に回復したものとして扱います。ただし健全度Ⅳのように鉄筋の腐食などで本来の構造耐力に影響が及んでいる劣化は、修繕しても健全度は回復しないとされました[1]。
05
直せる構造にする──多重化・維持管理のしやすさ・診断者
点検で異状が見つかっても、直せなければ意味がありません(点検の後の修繕が進まない問題は、用語集「修繕ギャップ」)。とりまとめは、構造の基準として、重要管路で次の3つを柱に再構築を進めるとしています[1]。
1つ目は多重化(リダンダンシー)の原則化です。重要管路のうち、既存の施設を最大限活用しても水位を下げられない箇所では、多重性を確保することを原則とします。水位の目安は、更生工法が実施できる最大の水位である60cm以下です。手段としては、管路の複線化、連絡管の整備、貯留施設の増設、ポンプ設備の配置などを組み合わせます[1]。下水は止められません。水位を下げられない管路は、点検も改築も難しいということです。
2つ目は維持管理のしやすさ(メンテナビリティ)です。改築の機会に、マンホールの間隔や大きさ、蓋の大きさ、埋設の深さを見直すことが原則とされました。本文には、事業者へのヒアリングとして、一般的なφ600mmの開口部では必要なポンプを管内に搬入できず、水替えを断念した事例が載っています[1]。センサーについては、重要管路のうち化学的弱点と力学的弱点が重なる範囲と、年間平均の硫化水素ガス濃度が50ppm以上の範囲で、新設・改築のときに光ファイバーや多機能型マンホール蓋などのセンサーを設置するなど、異状を検知する措置を講じるとしています。センサーは点検の代わりではなく、異状の発生を常時・即時に捉えて詳細な点検につなげる「補完」と位置づけられました[1]。
3つ目は要注意箇所への対策です。重要管路の化学的弱点箇所を新設・改築するときは、耐硫酸性を有するコンクリート等の管材を使うことを標準とし、硫化水素ガス濃度100ppmの環境で100年以上機能を確保することを目指すとしています。ただし本文は、管きょの防食技術(耐食材料・防食被覆)にはまだ規格が無いことも書いています[1]。
診断する人の要件
診断の質については、必要な知識及び技能を有する者が診断を行うことを標準としました。具体的には、下水道管路の構造、点検や診断の基準、腐食のメカニズムなどを熟知していることが確認できる者で、シールド管や大口径管路を診断する場合はその構造や特性の知見も要件に加えます。診断結果は、別の有資格者による照査、外部の専門家の意見聴取、関係者の会議体のいずれかで妥当性を確かめます。こうした手間をかけるには、点検・診断の積算基準の見直しが必要とも書かれています[1]。要件が示されたのは「診断する人」で、特定の資格の名前は挙がっていません。
管内作業の安全については、令和7年8月2日に埼玉県行田市で、全国特別重点調査中の作業員4名が亡くなった事故に触れています。そのうえで、作業場所の酸素濃度を18%以上、硫化水素濃度を10ppm以下に保つよう常時換気すること、作業中は警報付きの測定器でガスを検知し続けることなどの徹底を求めています[1]。将来は人が管路に入らずに点検できる「管内No Entry」(用語集「No Entry点検」)を目標に、無人化・省力化の技術を進めるとしています[1]。
06
公表は年1回、地図で
改正法は、下水道管理者に、工事と維持管理の状況のうち国土交通省令で定める事項をインターネット等で公表することを義務づけました[6]。とりまとめは、その中身の案を「公表に関する統一的ルール」として示しています[1]。
- 必須:重点点検管路について、①施設配置、②診断年月日、③診断結果、④対策内容を、1年に1回以上の頻度で公表(更新)する。地図にして、インターネットで公表する。診断結果は異状箇所ごとに(履歴を含めて)公表し、健全度Ⅳは異状の状態が分かる画像を、判明しだい速やかに公表する。対策内容は、異状箇所ごとに対策の方針と予定時期(おおむねの年度など)を公表する
- 標準:地理情報システム(GIS)を基盤としたデータベース上で公表する。施設の諸元(設置年度・管径など)、その年度の点検予定箇所も公表する。施設の改築費用を含む収支見通しを公表する
- 推奨:重点点検管路以外の管路についても同様に公表する。都道府県の流域下水道と市町村の管路を同じ地図に載せる
本文は、対策の方針が決まっていないことを理由に、診断結果を公表しないことが無いよう留意する、とも書いています[1]。住民が市町村全体の状況と自宅の周りの状況の両方を確かめられるよう、地図の縮尺を複数用意する工夫も求めています[1]。

出典:国土交通省「下水道管路マネジメントのための技術基準等に関する検討とりまとめ」(令和8年10月)[1]p.55~56、同検討会 第8回 資料1[3]・資料4-2[4]、報道発表(令和8年8月4日)[7]をもとに当社作成
9月25日の案から強まったところ
第8回会合(9月25日)に出された案と、10月5日の最終版を読み比べると、公表のルールは最終版で強まっています[1][4]。
- 地図化とインターネットでの公表:案「推進する」→ 最終版「必須とする」
- 収支見通しの公表:案「推奨する」→ 最終版「標準とする」
- 公表する項目:案の「施設配置・診断結果・対策内容」に、最終版で「診断年月日」が加わった
- 最終版には「道路管理者との連携」の節が新たに立ち、点検計画の策定、点検結果の共有、それを踏まえた路面下空洞調査を道路管理者と連携して行うことが書き込まれた
工場やビルの立場から見ると、敷地の前の道路の下を通る公共下水道の状態を、地図で確かめられるようになるということです。とくに重要管路は緊急輸送道路の下なども含むので、物流の動線や事業継続計画(BCP)を考えるときの材料になります。ただし、いつから公表が始まるかは政省令・告示の内容と施行を待つ必要があります。
07
民間の動き
腐食リスクをデータで絞り込む──Hmcommの福山市での実証
AI音声処理を手がけるHmcomm(東京都港区)は10月2日、広島県の「The Meet 2026 広島オープンアクセラレーター Gov-Tech-Challenge」で、福山市が示した「下水道管の無人インフラ点検・診断」の課題に対する同社の提案「AIによる下水道腐食リスク可視化と重点点検支援」が採択され、10月から実証を始めたと発表しました[10]。広島県も10月1日に、福山市とHmcommの「AI を活用した下水道リスク可視化による重点点検対象の抽出と予防保全」を、22件の採択プロジェクトの1つとして公表しています[12]。
内容は、下水道・管路の情報、点検・修繕履歴、腐食履歴、都市・建物の情報、落差や合流などの地形・管路条件といった既存データから、腐食や硫化水素の発生要因を分析して高リスクの候補地点を抽出し、そこで硫化水素、溶存酸素(DO)、水位・水温、温湿度、管内の流水音などを継続して計測するというものです。実証期間は2027年3月までの予定です[10]。技術監修は日本大学の森田弘昭特任教授と発表されています[10]。
とりまとめは、硫化水素の移動が釣り合っていて腐食のおそれが大きくない環境を「化学的・技術的に特定することは難しい」と書き、化学的弱点箇所は実際の流量など現実の状態で判断するよう求めています[1]。どこが腐食しやすいかをデータで絞り込む取り組みは、この難しさに向き合うものです。ただし実証は始まったばかりで、精度や費用の数値はまだ公表されていません。
「止めずに直す」が前提になる──セイスイ工業の自治体調査
仮設水処理プラントのレンタルを手がけるセイスイ工業(千葉市)は10月8日、下水処理場の施設・設備の故障、メンテナンス、改修・更新、統廃合に関わる全国の自治体職員109名に聞いた調査の結果を公表しました(インターネット調査、2026年9月11日~17日)[9]。
- 設備を通常どおり使えない間に流入する汚水の処理方法を「あまり検討できていない」33.0%、「全く検討できていない」1.8%で、合わせて34.8%
- 排水処理や汚泥の処理・引き抜きが原因で、想定していた対応方法・工程・費用が変わった経験が「複数回ある」「1回ある」は合わせて72.5%
- その原因(n=79、複数回答)の首位は「仮設の排水処理に対応できる事業者・設備が見つからなかったこと」で43.0%
この調査の対象は管路ではなく処理場で、同社は仮設の水処理を事業にしている会社です。それでも、点検・改築のあいだも下水を流し続けなければならないという制約は、とりまとめが重要管路で多重化を原則にした理由と同じところにあります。
08
工場・ビルの排水設備への読み替え
最初に確認しておくと、とりまとめは公共下水道を管理する自治体などに向けたもので、工場やビルの構内排水設備に義務を課すものではありません。それでも、考え方は自社の排水設備の点検にそのまま使えます。
表3 工場・ビルの排水設備への読み替え
| 国の考え方(公共下水道) | 工場・ビルでの読み替え | 出典 |
|---|---|---|
| 事故時の社会的影響で「重要管路」を先に決め、点検に差をつける | 止まると操業や建物の使用が止まる排水の幹線、建屋や通路・搬入路の下を通る配管を先に洗い出し、点検の優先順位を付ける | [1]p.16 |
| 化学的弱点箇所(圧送管の吐出し先、落差の大きい箇所、ビルピット排水・特殊排水の排出先など)を要注意箇所にする | 排水槽・ビルピットからの圧送の吐出し先、段差のある桝、薬品や高濃度の排水が流れる区間を、腐食の要注意箇所として台帳に印を付ける | [1]p.20 |
| 硫化水素は年間平均を測る。瞬間的に100ppmを超える箇所にも注意する | 排水槽の清掃や点検のときに硫化水素濃度を測って記録する。入槽前は酸素18%以上・硫化水素10ppm以下を確認する | [1]p.22・60 |
| 健全度Ⅰ~Ⅳを異状箇所ごとに判定し、「診断保留」も区分として記録する | 点検記録を「区間ごと」ではなく「箇所ごと」に残し、カメラが入らず見られなかった箇所は「保留」と明記して、次回の手段を決めておく | [1]p.9~11 |
| 水位を下げられない重要管路は、複線化などで多重化する | 止められない排水系統について、点検・改修中の迂回経路や仮設の処理手段を、平時に決めておく | [1]p.42、[9] |
| 健全度Ⅲは点検の間隔を縮める | 一度「要注意」と判定した箇所は、次回の点検を前倒しする | [1]p.19 |
| 公表:施設配置・診断年月日・診断結果・対策内容を年1回以上 | 社内でも、配管図・点検日・結果・対策予定を1枚の図にまとめて年1回更新し、経営層や施設利用者と共有する | [1]p.56 |
ビルピットの排水については、下水道管理者の側がその排出先を化学的弱点箇所として扱う、という点も押さえておきたいところです[1]。排水を出す側の対策は、とりまとめの範囲外なので、ここでは扱いません。
まとめ
検討とりまとめが示したのは、限られた人員と予算で陥没を防ぐために、どの管路から、どの頻度で、何を物差しに点検し、結果をどう見せるかという設計図です。重要管路を先に決めて弱いところほど短い間隔で点検し、診断は箇所ごとの「健全度」で行い、健全度Ⅲの箇所は間隔を縮めて空洞調査も行う。水位を下げられない管路は多重化して、直せる構造にする。そして結果は年1回、地図で公表する。「見つける」「直す」「知らせる」の3つを、それぞれ仕組みにしたものと読めます。
ただし、法令になるのは政省令・告示の公布を待ってからで、国の予定では年内に公布、令和9年1月中に施行です。数字が確定するまでは「案」として扱い、公布されたら改めて確かめるのが安全です。工場やビルの設備担当者は、敷地のまわりの公共下水道がどう公表されるかを見守りつつ、自社の排水設備にこの考え方を先に当てはめておくことができます。
- 敷地のまわりの下水道を確認する:前面道路が緊急輸送道路か、近くに河川や軌道を横断する下水道管が無いかを調べ、重要管路に当たりそうな区間をメモしておく。自治体の公表が始まったら最初に見る
- ビルピット・排水槽の吐出し先を点検台帳に載せる:圧送の吐出し先、段差のある桝を「腐食の要注意箇所」として印を付け、次回の点検で重点的に見る
- 硫化水素を測って記録する:排水槽の清掃や点検のときに濃度を測り、日付と一緒に残す。入槽前は酸素18%以上・硫化水素10ppm以下を確認する
- 点検記録を「箇所ごと」にする:異状の位置・状態・写真を箇所ごとに残し、見られなかった箇所は「保留」と書いて次回の手段(カメラの種類、清掃してからの再点検など)を決める
- 止められない排水系統の代替手段を決めておく:点検や改修のあいだの迂回経路、仮設ポンプ・仮設処理の手配先を、平時のうちに一覧にしておく
よくある質問(FAQ)
Q. 下水道管路の点検頻度は、もう法律で決まったのですか?
A. まだです。2026年10月5日に公表されたのは検討会の「検討とりまとめ」で、国の技術基準等を見直すための材料です。国の予定では、政省令・告示を年内に公布し、令和9年1月中に施行します。どの項目が政令・省令・告示になるかは、公布される内容を確認する必要があります。
Q. 「5年に1回以上」の点検は、今回新しくできたルールですか?
A. いいえ。腐食のおそれが大きい箇所を5年に1回以上点検することは現行のルールで、とりまとめも「現行の頻度(5年に1回以上)」と書いています。今回の案で新しいのは、重要管路の弱点が重なる箇所や硫化水素濃度が特に高い箇所を3年に1回以上、それ以外の重要管路を10年に1回以上とした点と、健全度Ⅲの箇所の頻度を上げる点です。
Q. 「重要管路」とはどんな管路ですか?
A. 下水処理場から直前の最終合流地点までの管路、流域下水道の管路、管径2m相当以上の大口径管路、緊急輸送道路・軌道・河川の下の管路のいずれかに当たる管路です。重要管路の上にあるマンホールも含みます。
Q. 「健全度」と、これまでの「緊急度」はどう違いますか?
A. 緊急度は対応の急ぎ具合を示し、マンホール間のスパン単位で判定していました。健全度は施設の状態を示し、異状のある箇所ごとに判定します。番号の向きも逆で、緊急度は「Ⅰ」が最も重く、健全度は「Ⅳ」(緊急措置段階)が最も重い区分です。緊急度をそのまま健全度に読み替えることはできないとされています。
Q. 工場やビルの構内の排水管も対象になりますか?
A. なりません。とりまとめは公共下水道を管理する自治体などに向けたものです。ただし、重要な配管を先に決める、腐食しやすい箇所を要注意箇所にする、点検記録を箇所ごとに残す、といった考え方は、構内の排水設備の点検にもそのまま応用できます。
Q. 自分の地域の下水道管の状態は、いつから見られるようになりますか?
A. とりまとめは、重点的に点検する管路について、施設配置・診断年月日・診断結果・対策内容を1年に1回以上、地図にしてインターネットで公表することを必須としています。ただし、公表が始まる時期は政省令・告示の内容と施行を待つ必要があり、2026年10月14日時点では決まっていません。
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