▶ 定義
国土強靱化とは、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある大規模自然災害等に備えた、国土の全域にわたる強靱な国づくりをいう。
これは国土強靱化基本法(正式名称: 強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法/平成25年法律第95号)第1条に置かれた法律上の定義です。英語では National Resilience。所管する内閣官房は「国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)、防災・減災の取組みは、国家のリスクマネジメントであり、強くてしなやかな国をつくることです」と説明しています。計画は基本計画・実施中期計画・地域計画の3階層で構成されます。
01 計画の3階層 ── どれを見ればよいか
「国土強靱化」と名の付く計画は複数あり、混同されがちです。基本法が定める上下関係は次のとおりです。
| 計画 | 根拠 | 性格 |
|---|---|---|
| 国土強靱化基本計画 | 第10条 | 国土強靱化に係る国の計画等の指針となるべきもの。第11条は「国土強靱化基本計画以外の国の計画は、国土強靱化に関しては、国土強靱化基本計画を基本とする」と定めており、事実上の上位計画にあたる |
| 国土強靱化実施中期計画 | 第11条の2 | 基本計画に基づく施策の実施に関する中期的な計画。計画期間、実施すべき施策の内容と目標、推進が特に必要となる施策の内容とその事業の規模を定める |
| 国土強靱化地域計画 | 第13条 | 都道府県または市町村が定める計画。第14条により基本計画との調和が求められる |
実務で予算や事業の規模を確認したいときに見るのは、実施中期計画です。事業規模まで書き込むのはこの階層だけだからです。自治体の担当者であれば、あわせて自団体の地域計画も確認することになります。
02 第1次国土強靱化実施中期計画の全体像
令和7年6月6日に閣議決定された第1次国土強靱化実施中期計画は、計画期間を令和8年度から令和12年度までの5年間とし、次の構成をとっています。
- 計画期間内に実施すべき施策:全326施策
- うち推進が特に必要となる施策:全114施策(234指標)
- 「推進が特に必要となる施策」の事業規模:今後5年間でおおむね20兆円強程度を目途
「推進が特に必要となる施策」は5つの柱に整理されています。柱ごとの施策数・指標数と事業規模は次のとおりです。
| 柱 | 施策数(指標数) | 事業規模 |
|---|---|---|
| Ⅰ. 防災インフラの整備・管理 | 28施策(76指標) | おおむね5.8兆円 |
| Ⅱ. ライフラインの強靱化 | 42施策(87指標) | おおむね10.6兆円 |
| Ⅲ. デジタル等新技術の活用 | 16施策(24指標) | おおむね0.3兆円 |
| Ⅳ. 官民連携強化 | 13施策(18指標) | おおむね1.8兆円 |
| Ⅴ. 地域防災力の強化 | 16施策(29指標) | おおむね1.8兆円 |
※ 1施策(住宅・建築物の耐震化の促進)が「ライフラインの強靱化」と「官民連携強化」の両方に位置付けられているため、各柱の施策数の合計は全施策数と一致しません。
03 保全の実務に直結する部分
防災の計画でありながら、この中期計画は維持管理の話を正面から扱っています。保全担当者が押さえるべきは次の3点です。
(1) 「予防保全型メンテナンスへの早期転換」が2つの柱に置かれている
Ⅰ「防災インフラの整備・管理」とⅡ「ライフラインの強靱化」の双方に、主な施策として明記されています。Ⅱの本文は「確実な点検・診断の実施や災害耐力の低下をもたらす致命的な損傷の早期解消、運営基盤の強化等を推進し、予防保全型メンテナンスへの早期転換を図る」と述べています。事後保全から予防保全への移行が、防災政策の言葉で語られているということです。
(2) 八潮市の道路陥没事故が「基本的な考え方」に入っている
第1章の基本的な考え方には、災害外力・耐力の変化への対応として「埼玉県八潮市の道路陥没事故を踏まえたインフラ老朽化対策の推進」が挙げられています。同じ事故が改正下水道法(2026年改正)の直接の契機にもなっており、法制度と国土強靱化計画の両方が同じ事象を起点に動いています。
(3) 点検の省人化に数値目標が付いている
Ⅲ「デジタル等新技術の活用」は「AIやドローン、衛星等の革新的なデジタル等新技術は、組合せや使い方の工夫次第で、国土強靱化の取組を飛躍的に進化させる可能性を秘めている」としています。具体的な目標の例として、次のようなものが示されています。
- 河川巡視の無人化:国管理河川(約10,000km)における河川巡視の無人化に対応するための環境整備(ドローンによる河川巡視のための通信環境の整備)の完了率 ── 0%【令和6年度】→ 22%【令和12年度】→ 100%【令和15年度】
- 上下水道施設の耐災害性強化:給水区域内かつ下水道処理区域内の重要施設(約35,000か所)のうち、接続する水道・下水道の管路等の両方が耐震化されている割合 ── 9%【令和5年度】→ 30%【令和12年度】→ 100%【令和36年度】
最後の「100%【令和36年度】」という到達年に注目してください。この計画は「おおむね20年から30年程度を一つの目安として」長期目標を設定しており、5年で終わる話として書かれていません。
- 予防保全への移行を「国の方針」として説明できる:中期計画に明記された「予防保全型メンテナンスへの早期転換」は、社内・庁内の説明でそのまま引用できる表現です。閣議決定された計画に載っているという事実に重みがあります。
- 自団体の地域計画を確認する:基本法第13条の国土強靱化地域計画は、多くの自治体が策定しています。国の中期計画とのつながりを見ておくと、事業の位置づけを説明しやすくなります。
- 指標の年次に注意する:目標値は【R5】【R6】といった基準年と、【R12】【R36】といった到達年のセットで書かれています。引用するときは年次を落とさないこと。数字だけを取り出すと意味が変わります。
- 「20兆円強」は全体の数字である:これは推進が特に必要となる114施策の総額であり、個別事業の予算枠ではありません。柱ごとの内訳(Ⅰ 5.8兆円、Ⅱ 10.6兆円 等)まで見て使ってください。
よくある質問
Q. 国土強靱化は、防災のことですか。それともインフラ整備のことですか。
A. どちらか一方ではありません。基本法第1条は国土強靱化を「大規模自然災害等に備えた国土の全域にわたる強靱な国づくり」と定義しており、施設整備だけでなく、避難や情報伝達、人材育成、事業継続(BCP)まで含む幅の広い概念です。第1次実施中期計画の5つの柱にも、防災インフラ(Ⅰ)と並んで官民連携(Ⅳ)や地域防災力(Ⅴ)が置かれています。設備・インフラの維持管理は、その一部として位置づけられているという関係です。
Q. 「5か年加速化対策」とは何が違うのですか。
A. 実施中期計画は、基本法第11条の2に根拠を持つ法律に基づく計画です。計画期間・施策の内容と目標・推進が特に必要となる施策の事業規模を定めることが法律で求められており、毎年度の年次計画を通じてフォローアップが行われます。第1次実施中期計画の計画期間は令和8年度から令和12年度までの5年間で、その直前の期間を対象としていた「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の後を受ける位置にあります。
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