省力化投資補助金 第8回が始まった。審査を分ける「省力化指数」は保全部門の時間データでできている
2026年10月8日更新:第8回の応募締切(10月16日17時)が事務局サイトで公表されたため、該当箇所を書き改めました。
この記事の要点
- 中小企業省力化投資補助事業(一般型)第8回の応募受付が2026年9月18日10時に始まりました。補助上限は従業員数に応じて750万円から8,000万円(特例適用時は1,000万円から1億円)、補助率は中小企業1/2・小規模企業者2/3です。受付期間は10月16日(金)17時までです。締切日は公募要領には書かれておらず、事務局サイトで公表されました。第9回の公募時期は2026年10月8日時点で公表されていません。
- 審査の技術面は省力化指数・投資回収期間・付加価値額・オーダーメイド設備の4観点です。省力化指数は「削減される業務に要していた時間」を分母、そこから「導入後に発生する業務に要する時間」を引いたものを分子とする比で定義されています。分母も分子も、点検・巡回・故障対応の所要時間です。この記録を持っているのは保全部門だけです。
- 補助金の上位には、内閣官房 日本成長戦略本部が業種別に策定した「省力化投資促進プラン」があります。2025年から2029年を「省力化投資集中期間」と定めた計画で、2026年8月26日には中小企業庁が支援サイト「省力化ナビ」にビルメンテナンス業・警備業を含む5業種を追加しました。省力化ナビの活用は公募要領の加点項目8に指定されています。
▶ 補助金の話に見えて、点検記録の話である
補助金の申請書を書くのは、多くの会社で経営企画か総務の仕事でしょう。設備保全の担当者が関わるとしても、機種の選定や見積の取得までというのが実際だと思います。ところが第8回の公募要領を読むと、審査の中心に置かれているのは「どの業務が、年間何時間かかっていて、それが何時間に減るのか」という一点です。この数字は経理にも経営企画にもありません。点検票と作業日報を持っている部門にしかない数字です。本稿では制度の骨格を押さえたうえで、審査項目を保全の言葉に置き換えていきます。SMDGの実現レベル5段階を取り上げたときと同じく、国が用意した物差しを自社に当てる話です。
01
9月18日、第8回公募が始まった。締切は10月16日17時
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)は2026年9月18日10時、中小企業省力化投資補助事業(一般型)第8回の応募申請の受付を開始しました。公募要領は2026年8月に発行され、受付開始と同じ9月18日付で3か所が改訂されています。
この補助金には2つの型があります。カタログ注文型は、国があらかじめ省力化効果を認めた製品を製品カタログから選んで導入するもので、申請が迅速かつ簡易です。これに対して一般型は、個別の現場や事業内容に合わせて設計された設備・システムを対象とし、そのぶん審査項目が多くなります。公募要領は冒頭で「本事業での申請をご検討いただく前に、カタログ注文型の製品カタログを必ず確認してください」と促しています。まずカタログを見て、そこに該当がなければ一般型、という順序が想定されています。
制度の骨格
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受付開始 | 2026年9月18日(金)10時 |
| 応募締切 | 2026年10月16日(金)17時。公募要領4-2は「申請受付時期及び終了時期は本事業のホームページにて公開します」としており、締切日は事務局サイトで公表された(2026年10月8日確認)。次の第9回については「次回の公募時期については、あらためて、ホームページで公開します」とされ、同日時点で未公表 |
| 補助上限額 | 従業員5人以下 750万円/6~20人 1,500万円/21~50人 3,000万円/51~100人 5,000万円/101人以上 8,000万円 (大幅賃上げ特例の適用時は順に1,000万円/2,000万円/4,000万円/6,500万円/1億円) |
| 補助率 | 中小企業 1/2(最低賃金引き上げ特例の適用時 2/3)/小規模企業者・小規模事業者・再生事業者 2/3 |
| 補助事業実施期間 | 交付決定日から17か月以内(採択発表日から19か月以内) |
| 対象経費 | 機械装置・システム構築費(必須)、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費 |
| 申請方法 | 電子申請のみ。GビズIDプライムアカウントが必須(発行に一定期間を要する) |
受付期間が約4週間しかないことの実務的な意味
第8回の受付期間は9月18日から10月16日までの約4週間です。受付が始まってから準備を始めても、間に合わない手続きがあります。申請にはGビズIDプライムアカウントが要り、公募要領は「発行には一定期間を要しますので、お早めにご準備ください」と繰り返し書いています。さらに従業員21名以上の事業者は、交付申請までに次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を「両立支援のひろば」に公表する必要があり、この掲載だけで2週間程度かかると明記されています。第8回に間に合わない場合も、公募は回ごとに行われているため、次の公募に備えてIDの取得と、後述する時間データの整備を先に進めておくのが現実的です。
02
審査を分ける「省力化指数」は、時間の比でできている
公募要領5-1は書面審査を4つの区分に分けています。適格性・技術面・計画面・政策面の4つです。このうち技術面の評価は4つの観点で行われます。
- 省力化指数が高い取組であることが示され、その記載内容や算出根拠が妥当か
- 投資回収期間が短い取組であることが示され、その算出根拠が妥当か
- 付加価値額の年平均成長率が大きい案件であることが示され、その算出根拠が妥当か
- 人手不足の解消に向けて、デジタル技術等を活用した専用設備(オーダーメイド設備)等の導入を行う事業計画か
4つのうち3つが「算出根拠が妥当か」を問うています。つまりこの審査は、アイデアの新しさではなく数字の出どころを見ています。
省力化指数の定義
公募要領1-2(2)は、省力化指数を次のように定義しています。
省力化指数= [(設備導入により削減される業務に要していた時間)-(設備導入後に発生する業務に要する時間)] ÷(設備導入により削減される業務に要していた時間)
式そのものは単純ですが、保全の現場から見ると2つの項が効いてきます。
分母は「その業務に、いま年間何時間かけているか」です。巡回点検にかかる時間、アナログ計器の読み取りと転記にかかる時間、異常時の駆けつけと復旧にかかる時間。これらを設備単位・ルート単位で押さえていなければ、分母が書けません。
分子は、そこから「導入後に新しく発生する時間」を引いたものです。ここが見落とされやすい箇所です。ロボットを入れれば、そのロボットの充電・清掃・消耗品交換・ソフト更新・故障対応が新しく発生します。この時間を過小に見積もった計画は、審査で「算出根拠が妥当か」を問われたときに弱くなります。

出典:中小企業基盤整備機構「中小企業省力化投資補助事業(一般型)公募要領(第8回公募)」1-2(2)をもとに当社作成
基本要件には賃上げが組み込まれている
技術面の手前に、満たさなければ土俵に上がれない基本要件があります。3年から5年の事業計画で、次のすべてを満たす必要があります。
| 基本要件 | 内容 |
|---|---|
| 労働生産性 | 年平均成長率(CAGR)4.0%以上向上。労働生産性=付加価値額÷労働者数、付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費 |
| 1人当たり給与支給総額 | 年平均成長率3.5%以上増加(日本銀行が定める物価安定の目標+1.5%)。未達の場合は達成率に応じて補助金の返還 |
| 事業場内最低賃金 | 毎年、事業実施都道府県の最低賃金+30円以上の水準。未達の場合は補助金額を事業計画年数で除した額の返還 |
| 一般事業主行動計画 | 従業員21名以上の場合、交付申請時までに次世代育成支援対策推進法に基づく計画を「両立支援のひろば」に公表 |
賃上げが未達なら返す、という設計です。省力化で浮いた原資を人件費に回すところまでが一体の制度になっています。この点は、のちほど審査の計画面を見るときにもう一度効いてきます。
03
おさえておきたいキーワード
| キーワード | 概要 |
|---|---|
| 省力化指数 | 削減される業務時間のうち、どれだけが正味の削減になったかを示す比。公募要領1-2(2)に計算式がある。審査の技術面で最初に問われる(詳しくは用語集「省力化指数」) |
| オーダーメイド設備 | ICTやIoT、AI、ロボット、センサー等を活用し、単一もしくは複数の生産工程を自動化するために、外部のシステムインテグレータ(SIer)との連携などを通じて、事業者の個々の業務に応じて専用で設計された機械装置やシステム。汎用設備を単体で導入する事業は対象外 |
| 付加価値額 | 営業利益+人件費+減価償却費。労働生産性の分子になる |
| 省力化投資促進プラン | 内閣官房 日本成長戦略本部が業種別に策定した計画。飲食業から農林水産業まで13分野。2025年から2029年を「省力化投資集中期間」と位置づける(詳しくは用語集「省力化投資促進プラン」) |
| 省力化レベル | 省力化投資促進プランが業務ごとに示す3段階の到達度。レベル1が業界の平均的な事例、レベル2がベンチマーク、レベル3が目標となる優良事例 |
| 省力化ナビ | 中小機構が運営する支援サイト。業種別の課題と解決策、取組事例、相談先を提供する。2026年3月26日開設、同年8月26日に5業種を追加。活用が本補助金の加点要件 |
04
補助金の上にある「省力化投資促進プラン」
この補助金は単独で存在しているわけではありません。上位に計画があり、あいだに支援サイトがあり、その活用が加点になるという3層の構造になっています。

出典:内閣官房「省力化投資促進プラン」、中小企業庁報道発表(2026年8月26日)、中小企業基盤整備機構「公募要領(第8回公募)」をもとに当社作成
13分野のプランは、所管省庁がばらばらである
省力化投資促進プランは、内閣官房 日本成長戦略本部のもとで業種別に策定されています。飲食業、宿泊業、小売業、生活関連サービス業、その他サービス業、製造業、運輸業、建設業、医療、介護・福祉、保育、農林水産業の13分野です。大半は令和7年6月13日の策定で、警備業だけが令和7年12月22日と半年遅れています。
興味深いのは、業種ごとに所管省庁が違うことです。中小製造業は経済産業省、建設業は国土交通省、ビルメンテナンス業は厚生労働省、警備業は警察庁がそれぞれ作成しています。同じ枠組みで書かれていながら、担当する役所が異なるため、比較して読むと業界の事情の違いがよく見えます。
中小製造業プランが狙っているのは「中小製造業種」
製造業のプランは、製造業全体ではなく特定の層に狙いを定めています。プランの言葉を借りれば、自動車や半導体などの業種がリードしているため我が国製造業の1人当たり名目労働生産性は全産業平均を上回っている一方で、繊維工業のように中小企業の割合が高く労働集約的な業種では全産業平均より低い水準にとどまっている、という認識です。プランはこうした業種を「中小製造業種」と呼び、繊維業・プラスチック製品製造業・素形材産業などを挙げています。
根拠として示された数字が、業種と資本金で労働生産性がどれだけ開くかを示しています。

出典:内閣官房「省力化投資促進プラン(中小製造業)」(令和7年6月13日)の図をもとに当社作成(原典は経済センサス)
プランが掲げた目標は「製造業の労働生産性を2029年度までに24%向上」(名目値、2024年度比)です。この24%という数字は、次に見る補助金の基本要件、すなわち労働生産性の年平均成長率4.0%以上という条件と地続きです。5年間で年4.0%ずつ伸ばせば、複利でおよそ22%になります。補助金の要件は、国全体の目標を1社分に割り付けたものと読むことができます。
8月26日、省力化ナビに5業種が加わった
2026年8月26日、中小企業庁は中小機構および関係省庁と連携し、支援サイト「省力化ナビ」に冠婚葬祭業、ビルメンテナンス業、運輸業(バス・タクシー)、クリーニング業、警備業の5業種を追加しました。これで飲食業、宿泊業、小売業、理容・美容業、製造業、運輸業(トラック・倉庫)、建設業、自動車整備業、業種共通(バックオフィス業務)とあわせて14区分になります。
追加されたビルメンテナンス業のページには、建物管理システムによる情報の一元化と引継ぎの標準化、清掃管理アプリによる作業・品質の可視化、清掃DX(ロボット)による作業の標準化、床洗浄ロボットの活用、AI画像診断と清掃ロボットによる「選択と集中」、清掃現場管理アプリによる進捗の可視化という6つの取組が並びます。ビルの設備管理に関わる方であれば、自社で検討中のものが含まれているかもしれません。
公募要領5-2は10の加点項目を挙げており、その8番目が省力化ナビです。条件は「応募申請締切日までに省力化ナビを活用し、生産性向上の知見を確認していること」。ここまでは素直ですが、続けてこう書かれています。「省力化ナビ活用時に、本事業の申請に用いるGビズIDプライムを入力すること。当該加点を受けるためには、本事業を申請する際に入力するGビズIDプライムと省力化ナビ活用時に用いるGビズIDプライムが一致している必要があります」。担当者が自分のIDで閲覧し、申請は別のIDで行った場合、加点は付きません。社内で誰がどのIDを使うかを先に決めておく必要があります。
なお中小企業庁の発表によれば、省力化ナビの活用は本補助金だけでなく「デジタル化・AI導入補助金(複数者連携デジタル化・AI導入枠を除く)」の採択審査でも加点要件になります。
05
「設備を入れただけ」は○止まり
省力化投資促進プランには、業種ごとに省力化レベルの表が載っています。業務を10前後に分解し、それぞれの取組度合いを記号で評価する形式です。この凡例が、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
◎:省力化を進めている(設備・ITツールの導入に加え、業務プロセス変更等を伴う取組)
○:省力化を進めている(設備・ITツールの導入)
-:進めていない
設備やITツールを導入しただけでは○にとどまり、◎にはならないという設計です。◎に進むには業務プロセスの変更が伴っていなければならない、と国は定義しました。そのうえでレベル3を「目標となる優良事例」、レベル2を「ベンチマークとなる事例」、レベル1を「業界における平均的な事例」と置いています。

出典:内閣官房「省力化投資促進プラン」各業種版の凡例をもとに当社作成
SMDGの実現レベル5段階と同じ発想である
この構造に見覚えのある方もいると思います。当サイトでは以前、NEDOと経済産業省製造産業局が公開したスマートマニュファクチャリング構築ガイドライン(SMDG)の「実現レベル5段階」を取り上げました。設備不具合の予兆検知という変革課題について、情報の標準化から現実との双方向連携まで5段階で到達度を示すものです。実現レベル5段階は保全DXの公的な成熟度モデルとして使えます。
省力化投資促進プランの省力化レベルは、これを業種別に、より粗い3段階で行ったものと言えます。段数は違いますが発想は同じで、「自社は今どこにいるのか」を公的な物差しで言えるようにするためのものです。SMDGが製造業の設備管理に深く踏み込んだのに対し、省力化レベルは13業種を横断して同じ記号で測ります。SMDGでレベルを測り、省力化レベルで補助金の申請文脈に翻訳するという使い分けが可能です。
補助金の審査も、同じことを求めている
○と◎の区別は、プランの中だけの話ではありません。公募要領5-1の計画面の評価項目にも、ほぼ同じことが書かれています。
補助事業を実施することにより、部分的な省力化に留まらずに会社全体にシナジーや成果をもたらす取組みとなっているか。具体的には、補助事業で省力化された時間や労働力を高付加価値業務に振り向けることで賃上げにつながるような、会社全体における柔軟なリソースの最適化の観点をふまえた内容となっているか。
「部分的な省力化に留まらずに」という一文が、○と◎の境目に対応しています。巡回点検の時間が減りました、では足りない。減った時間を何に使い、それがどう付加価値と賃金に結びつくのかまで書けているかを見る、という宣言です。
ここは保全部門が答えを持っている領域でもあります。巡回で消えていた時間を予防保全の計画づくりに回す、点検データの分析に回す、技能継承の時間に回す。いずれも保全の言葉で具体的に書けるはずです。
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保全の時間を削った実例と、新しく生まれる保全対象
ここで注意しておきたいことがあります。省力化投資促進プランは、設備保全そのものをほとんど名指ししていません。中小製造業プランが挙げる対象業務は2次加工・組付・検査・製織・縫製・工程間搬送であり、ビルメンテナンス業プランは清掃と勤怠管理です。「予知保全」という語はどのプランにも出てきません。国が設備保全の省力化を推進している、と読むのは行き過ぎです。
それでも本稿でこの制度を扱うのは、プランが挙げた優良事例のなかに、保全の時間を削った会社が実際に含まれているからです。
プランの優良事例に載った、保全の時間削減
ものづくり補助金を活用してIoTシステムを独自開発し、工場内の成形機を社内LANに接続。手作業工程の多い組立工程もセンサー等で稼働状況を一元化しました。結果として工場設備の約9割が管理システムとIoT連携し、金型管理時間は自動化により年間約1,050時間から90時間へ、960時間短縮。2017年のIoT導入前と比較して工程内の成形不良によるコストを60%低減しています。プランの図には「金型のメンテナンス時期を知らせるアラーム表示」が示されており、時間基準の管理から状態に応じた管理へ進んでいることがうかがえます。
鋳造工場の自動化・省人化のため、ロボットを活用した鋳型(中子)の搬送・設置を行う専用設備を開発し、労働時間当たりの生産性を約2割改善。製品出荷プロセスでは重い鋳物の運搬に複数の作業員が介在していたところ、自動倉庫システムとロボットの導入により作業員を14人から4人に省人化しました。工場内の生産工程データの収集体制も構築しています。専用設備を開発したという点で、オーダーメイド設備の典型例と言えます。
省力化投資補助金のカタログ注文型を活用し、自動車向け金属プレス部品の無人搬送車(AGV)を導入。部品搬送時の2名体制を1名体制に省人化しました。視認性に課題のあるフォークリフトの使用エリアが限定され、工場内の安全性も向上しています。プランは「工場床面にAGV通行帯のシールを貼るのみで、工場の大規模なレイアウト変更の必要がなく、導入障壁が無かった」と記しており、カタログ注文型が向く場面を示す例になっています。
建設業のプランにも、点検が登場する数少ない箇所があります。施工中のトンネルで目視による異常監視に限界があったところに、特徴点の少ない場所でも自律飛行できるドローンを導入した事例です。遠隔操作で充電ポートから離陸し、飛行指示情報が入ったマーカーをカメラで読み取って自律飛行する仕組みで、坑内への立ち入りと暗所での目視点検に比べ、事務所と現場の間の移動時間、坑内の歩行時間、そして点検自体の省力化を実現したとされています。
民間では、PoCから本格導入へ進んだ例が出ている
当サイトでは予知保全の実装最前線で、2026年7月に発表されたコスモ石油堺製油所の四足歩行ロボット実証を、実現レベル5段階のレベル2の入口に位置づけました。それから約2か月、同じ四足歩行ロボットが本格導入の段階に進んだ例が出ています。
株式会社東北エンタープライズは、キリンビール株式会社が運営するキリンビール北海道千歳工場において四足歩行ロボット「Spot」を本格導入し、定期巡回点検業務の自動化に取り組んでいると発表しました。運用開始は2025年8月。5つの巡回ルートで約100カ所に及ぶ点検項目を自動で実施しています。背中のペイロードに高解像度ズームカメラ・熱画像カメラ・音響カメラを搭載し、人が目視で行っていたアナログゲージの読み取り、配管などからの液体の漏れ、蒸気やエアーの漏れ、液量の確認を代替する構成です。取得したデータは管理プラットフォーム「Orbit」でリアルタイムに確認し、株式会社IIUが開発した設備保全管理システム「AIMOS-DX」と連携して長期的に蓄積・分析しています。工場側は「現在の半分の人員で稼働を回す」という危機感を背景に導入を決めたとされ、年間約650時間の巡回作業時間削減を目指すとしています(実績値ではなく目標である点にご留意ください)。
ここで注目したいのは650時間という数字そのものよりも、この会社が「年間何時間」という単位で効果を語っていることです。省力化指数の分母と分子は、まさにこの形の数字でできています。
省力化投資は、保全部門に新しい保全対象を持ち込む
ここからが、補助金の解説記事にはあまり書かれない話です。
ビルメンテナンス業のプランは、清掃ロボットの効果を説明したうえで、「困難性の高い清掃作業の自動化技術は発展途上」と率直に書いています。別の頁では「清掃ロボット以外の技術は発展途上である」とも記しています。国のプラン自身が、現時点で任せられる範囲には限りがあると認めているわけです。
そして任せた範囲についても、ただ楽になるわけではありません。清掃ロボットにせよ点検ロボットにせよ、導入すればそれ自体が新しい保全対象になります。充電ステーションの管理、ブラシやフィルターなどの消耗品交換、ソフトウェアの更新、通信が切れたときの復旧、そして故障時の切り分けと代替手段の確保。これらはすべて、これまで存在しなかった業務です。先ほどのキリンビール千歳工場でも、充電切れやネットワーク切断という技術的な懸念が現場から挙がり、自己充電機能と社内LAN連携によって克服したと説明されています。導入を決める前に洗い出しておくべき論点が、ここに具体的な形で現れています。
省力化指数の式に戻ると、この新しい業務の時間は「設備導入後に発生する業務に要する時間」として、まるごと分子から差し引かれます。つまり保全負荷の見積もりが甘い計画は、省力化指数を過大に書いてしまうことになります。審査が「算出根拠が妥当か」を三度も繰り返している以上、ここは丁寧に積むほうが結果的に強い計画になります。
言い換えれば、省力化投資の計画において保全部門が果たすべき役割は2つあります。削減できる時間を正確に出すことと、新しく発生する時間を正直に出すことです。前者だけを期待されがちですが、後者を出せるかどうかで計画の質が決まります。
07
審査項目を、自社設備に読み替える
ここまでの内容を、保全部門が出せるものに対応させて整理します。表の右列が、申請書を書く部署から求められる前に用意しておける材料です。
| 公募要領の審査項目 | 何を問われているか | 保全部門が出せるもの |
|---|---|---|
| 省力化指数 (技術面) |
削減時間の算出根拠は妥当か。導入後に発生する時間を織り込んでいるか | 巡回ルート別の所要時間、計器読み取りと転記の件数と時間、故障対応履歴の出動回数と復旧時間。加えて、導入機器の充電・消耗品交換・ソフト更新にかかる想定時間 |
| 投資回収期間 (技術面) |
回収年数の根拠資料があるか | 計画外停止による生産停止時間、緊急対応の外注費と時間外手当、予備品・消耗品費の実績 |
| オーダーメイド設備 (技術面) |
汎用品の単体購入ではないか。導入環境に応じて構成が変わることを示せるか | 既存設備のレイアウト図、設置制約(防爆・高所・狭隘・屋外)、必要なセンサーの種類と点数、SIerとの設計協議の記録 |
| 全社シナジー (計画面) |
部分的な省力化に留まらないか。空いた時間を高付加価値業務に振り向けるか | 予防保全計画への工数配分の変更案、点検データ分析の体制、技能継承にあてる時間の計画 |
| 労働生産性CAGR 4.0%以上(基本要件) |
付加価値額が増えるか | 設備停止時間の削減が生産量に与える効果、不良率低減の見込み、設備総合効率の改善幅 |
右列のほとんどは、新しく作る資料ではありません。すでに現場にある記録を、集計の単位を変えて出し直すだけのものです。逆に言えば、記録が設備単位・ルート単位で残っていなければ、どれも出せません。
まとめ
中小企業省力化投資補助事業(一般型)第8回の受付期間は、2026年9月18日から10月16日17時までです。第9回の公募時期は2026年10月8日時点で公表されていません。制度の上位には内閣官房の省力化投資促進プランがあり、2025年から2029年が省力化投資集中期間と位置づけられています。あいだに立つ省力化ナビには8月26日にビルメンテナンス業と警備業を含む5業種が加わり、その活用が加点項目8になりました。
審査は数字の出どころを見ます。とりわけ省力化指数は、削減できる時間と新しく発生する時間という、どちらも保全部門にしかない記録から作られます。そして国は、設備を入れただけの状態を○、業務プロセスまで変えた状態を◎と定義しました。公募要領の計画面も同じことを、部分的な省力化に留まらないかという言葉で問うています。
この補助金に申請するかどうかは、会社として決めることです。ただ、申請するにせよしないにせよ、点検・巡回・故障対応にいま何時間かけているかを設備単位で言えることには、それ自体の価値があります。時間基準保全から状態基準保全への移行を検討するときも、出発点は同じ数字です。次の月次集計から、集計の単位を1つ細かくしてみてはいかがでしょうか。
- 点検・巡回の所要時間を、ルート単位で記録し始める:月間の合計時間ではなく、どのルートに何分かかったかを残します。省力化指数の分母はこの形でしか書けません。日報に開始時刻と終了時刻の欄を足すだけでも、3か月あれば根拠資料になります。
- 故障対応の出動回数と復旧時間を設備単位で集計する:投資回収期間の算出根拠になります。あわせて、そのときに発生した時間外手当と緊急外注費を経理から取り寄せておくと、金額換算まで一気に進みます。
- GビズIDプライムの取得状況と、社内での使用者を確認する:申請は電子申請のみで、IDの発行には一定期間を要します。さらに加点項目8は、省力化ナビを見るときのIDと申請に使うIDが一致していることを求めています。誰のIDで省力化ナビを閲覧するかを先に決めてください。
- 検討中の機器が「オーダーメイド設備」に当たるかを整理する:汎用設備を単体で導入する事業は対象外です。自社の設置制約に合わせて周辺機器の構成やセンサー点数が変わること、複数の設備を組み合わせてより高い効果を出すことを説明できれば対象になり得ます。既存設備のレイアウト図と設置制約の一覧を先に作っておきます。
- 省力化で空く時間の行き先を、保全計画の言葉で書いておく:計画面の審査は「省力化された時間や労働力を高付加価値業務に振り向けること」を求めています。予防保全の計画づくり、点検データの分析、技能の継承。どれも保全部門なら具体的に書けるはずです。人員削減の計画として書くと、賃上げ要件と矛盾します。
よくある質問(FAQ)
Q. 第8回の応募締切はいつですか?
A. 2026年10月16日(金)17時です。受付期間は9月18日(金)10時からの約4週間です。公募要領4-2は「申請受付時期及び終了時期は本事業のホームページにて公開します」としており、締切日は中小機構の事務局サイトで公表されました(2026年10月8日確認)。次の第9回の時期は「あらためて、ホームページで公開します」とされ、同日時点で公表されていません。最新の情報は中小企業省力化投資補助金の公式サイトでご確認ください。なお、GビズIDプライムの発行や、従業員21名以上の場合に必要な一般事業主行動計画の公表(2週間程度)には時間がかかるため、次の公募を考える場合も早めの準備が必要です。
Q. カタログ注文型と一般型は、どちらを使えばよいですか?
A. 公募要領はまずカタログ注文型の製品カタログを確認することを求めています。カタログ掲載製品は国が省力化効果を認めており、申請が迅速かつ簡易だからです。そのうえで、製品をそのまま導入するのではなく、導入環境に応じて周辺機器や機器の数、搭載機能が変わる場合や、複数の汎用設備を組み合わせてより高い省力化効果を生む場合に、一般型の対象になります。なお、製品カタログに登録されているカテゴリに該当する製品を一般型で導入する場合は、審査で考慮されるとされています。
Q. 点検ロボットや清掃ロボットは「オーダーメイド設備」に当たりますか?
A. 製品を買ってきてそのまま使うだけなら当たりません。公募要領は「単に汎用設備を単体で導入する事業については、本事業の対象とはなりません」と明記しています。一方で「汎用設備であっても、事業者の導入環境に応じて周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能等が変わる場合や、汎用設備を組み合わせて導入することでより高い省力化効果や付加価値を生み出すことが可能である場合には、オーダーメイド設備であるとみなし、本事業の対象となります」とも書かれています。自社の設備レイアウト、防爆や高所といった設置制約、必要なセンサーの種類と点数に応じて構成を設計したことを示せるかが分かれ目になります。
Q. 省力化ナビ加点を取るには何をすればよいですか?
A. 公募要領5-2の加点項目8は「応募申請締切日までに、中小機構『省力化ナビ』を活用し、生産性向上の知見を確認していること」を条件としています。重要なのは続く条件で、省力化ナビを活用するときに本事業の申請に用いるGビズIDプライムを入力し、申請時のIDと一致している必要があるとされています。担当者個人のIDで閲覧して申請は別のIDで行うと加点されません。また中小企業庁の発表によれば、省力化ナビの活用は「デジタル化・AI導入補助金(複数者連携デジタル化・AI導入枠を除く)」の採択審査でも加点要件になります。
Q. 設備保全の省力化は、省力化投資促進プランの対象なのですか?
A. プランが名指ししている業務に「設備保全」は含まれていません。中小製造業プランが挙げるのは2次加工・組付・検査・製織・縫製・工程間搬送であり、ビルメンテナンス業プランは清掃と勤怠管理です。「予知保全」という語も登場しません。ただし、プランが紹介する優良事例には保全の時間を削った企業が含まれています(ワイ・ケー・ピー工業の金型管理時間 年間約1,050時間から90時間など)。また建設業プランには、自律飛行ドローンによる坑内の定期巡回点検が優良事例として掲載されています。補助金の審査基準そのものは業務の種類を限定していないため、保全業務の省力化で申請することは制度上妨げられていません。
Q. 賃上げ要件を満たせなかった場合はどうなりますか?
A. 補助金の返還を求められます。1人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上という目標が未達の場合は、達成率に応じた額の返還となり、成長率が0またはマイナスの場合は全額返還です。事業場内最低賃金を都道府県最低賃金+30円以上とする要件が未達の場合は、補助金額を事業計画年数で除した額の返還となります。ただし、付加価値額が増加しておらず、かつ企業全体として事業計画期間の過半数が営業利益赤字の場合や、天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合には返還を求めないとされています。なお再生事業者については、基本要件未達の場合の返還要件が免除されます。
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