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水道管の漏水調査は、なぜ衛星データから始めるようになったのか

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上下水道DX 漏水調査 衛星データ 上下水道DX技術カタログ 管路更新 設備保全

2026年10月8日更新:上下水道DX技術カタログが2026年9月30日に拡充されたため、掲載技術数を令和8年9月版の数字に改めました。

この記事の要点

  • 国土交通省は2026年9月2日に「国土交通省インフラ分野の衛星データ利用に関する取組方針」を公表し、関連施策の1つに「衛星技術・AIを活用した水道管の漏水調査等のスクリーニング」を挙げました。すでに実装段階とされ、上下水道DX技術カタログ(令和8年9月版で実用段階189技術)と導入の手引き(令和7年6月)が整備されています。
  • 衛星データで分かるのは、漏水そのものではなく「漏水の可能性が高い区域」です。国の手引きには、音聴調査の対象を管路の15%(兵庫県)、16.9%(大分県)まで絞り込んだ共同発注の事例と並んで、「期待していた漏水発見率までは成果が得られなかった」という盛岡市の報告もそのまま載っています。
  • 国は水道事業者のDX技術導入率を令和7年度当初の34%から令和9年度末に100%へ、管路情報を紙だけで管理する事業者をゼロにする目標を置いています。衛星解析の入力になるのは管路の位置データと漏水の履歴です。構内に埋設配管を抱える工場やビルにとっても、同じ2つの記録が出発点になります。

▶ 調べる前に「どこを調べるか」を決める

水道管は地中にあり、目で見て点検することができません。そのため漏水調査は長く、調査員が路面や消火栓・制水弁で漏水音を聴いて回る音聴調査に頼ってきました。全国の水道管は約74万kmあり、健全な区間も含めて順番に聴いていけば、市域をひと回りするのに数年かかります。いま水道の現場で起きている変化は、音聴をやめることではありません。聴く前に、宇宙から見て「聴くべき場所」を絞り込むという順番の入れ替えです。この考え方は、構内の埋設配管や給水設備を管理する工場・ビルの保全にもそのまま応用できます。本稿では国の方針・カタログ・手引きを一次資料にあたって整理し、最後に自社設備への読み替えを示します。

01
8月末からの1か月で、衛星と水道をめぐる発表が続いた

2026年8月末から9月末にかけて、水道管の維持管理に関する発表が国・自治体・民間から相次ぎました。日付順に並べると次のとおりです。

日付 発表元 内容
8月25日 株式会社インフラプラス(子会社 株式会社ウォーターリンクス) 沖縄県与那国町で水道スマートメーターの実証を開始。対象113戸
8月26日 国土交通省 第13回インフラ分野のDX推進本部で、衛星データ利用に関する取組方針を策定(公表は9月2日)
9月2日 株式会社日立製作所 宇宙からインフラを3次元監視する「構造化電波」の衛星搭載に向けた原理検証に成功
9月10日 THE WHY HOW DO COMPANY株式会社(子会社 株式会社グッドマン) 断水中でも漏水箇所を探せる大型の水素式探索ガス造成機の開発を開始
8月27日~9月25日 株式会社天地人 衛星データとAIによる漏水リスク診断サービス「宇宙水道局」の導入発表が続いた。8月27日に岐阜県海津市、9月7日に愛媛県八幡浜市、9月25日に大分県内の16水道事業者が共同で導入(管路更新計画の策定支援)。9月1日には、管路図をスマートフォン等で閲覧できる無償版を令和9年度に提供すると発表
9月28日 大阪市水道局 管路更新ペースの引上げに向け、基幹管路・水管橋・軌道横断管路の設計・施工を一体で民間に任せる官民連携手法について、民間事業者への市場調査(マーケットサウンディング)を開始(10月28日まで。発表は9月9日)

天地人の発表文には、サービスの延べ導入事業体数が記されています。2026年7月時点で「80を突破」、同年9月時点で「100を突破」です。いずれも契約更新を含む数で、2023年4月の提供開始から約3年半での数字です。

一つひとつは自治体向けの小さな発表ですが、並べると国が方針を示し、民間の導入が同じ月に積み上がった構図が見えます。当サイトではこれまで下水道、河川の排水機場、道路と、水と地中のインフラを順に取り上げてきました。今回は上水道です。

02
国の衛星データ方針は「水道管の漏水調査」を名指しした

「国土交通省インフラ分野の衛星データ利用に関する取組方針」は、2026年8月26日の第13回インフラ分野のDX推進本部で策定されました。同じ日にはAI実装の取組方針とフィジカルAI戦略も策定されており、衛星データ方針はその3本目にあたります。

背景にある政府全体の方針

方針は、政府全体の決定を下敷きにしています。2024年3月の衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース大臣会合は、令和6年度からの3年間を「民間衛星の活用拡大期間」と位置づけ、技術力を持つ国内スタートアップ等の衛星データを関係府省で積極的に調達・利用するとしました。3年間の最終年度は今年度(令和8年度)です。2026年7月の日本成長戦略も、防災・インフラ点検分野について政府による調達の強化(アンカーテナンシーの強化)を掲げています。

3つの分野のうち、水道は「インフラ点検」に入った

方針は衛星活用を(1)災害対応、(2)インフラ点検・環境モニタリング、(3)国土管理・国際展開の3分野に分けています。水道管が登場するのは(2)で、本文には次のように書かれています。

例えば、水道管の漏水調査等のスクリーニングに資する技術が実用化されており、国土交通省においても、DXを用いた漏水調査技術の導入の手引きや、採用実績のあるDX技術の情報を技術カタログとして公表し、積極的な活用を推進している。

方針の別冊「関連施策集」には、施策ごとの工程表が付いています。水道の施策シートは他の施策と比べて段階が進んでおり、「<段階>実装」と明記されています。ダム堤体の変位計測が「実証」、道路の被害把握が「技術開発」であるのと比べると、水道管の漏水スクリーニングは衛星活用のなかでも実務への組み込みが先行している分野です。

施策シートの要点は次のとおりです。

  • 何をするか:人工衛星データ等をAIで解析し、水道管の漏水リスクを約100m四方の区画で5段階評価して見える化する
  • これまでの成果:上下水道DX技術カタログの公表(令和7年3月)、DXを用いた漏水調査技術の導入の手引きの公表(令和7年6月)
  • 今後:カタログはホームページでの公募等により年2回程度内容を更新し、人工衛星やAIなどのDX技術の活用について全国の上下水道における標準実装を推進する
  • 財政支援:先端技術を活用するモデル事業への補助(上下水道DX推進事業)と、DX技術を活用した点検・調査の委託経費に対する地方財政措置

この方針が対象にしているもの、していないもの

方針が扱っているのは、国土交通省が所管する公共インフラです。水道でいえば市町村などの水道事業者が管理する水道管であり、工場やビルの敷地内にある給水設備や埋設配管は対象ではありません。本稿で工場・ビルへの応用を論じる場合も、国の方針がそれを求めているという意味ではなく、公共の水道で確立しつつある手順を借りるという意味です。この区別は、最後の読み替えの章でも維持します。

03
おさえておきたいキーワード

キーワード 概要
スクリーニング 漏水調査や更新工事の対象を、事前に絞り込むこと。国の手引きは、AIや人工衛星を活用して漏水可能性箇所等を絞り込む技術を「DX技術」と呼び、導入の対象としている。漏水箇所を特定するのは、その後の音聴調査
音聴調査 音聴棒や電子式漏水発見器で、管を伝わる漏水音を聴き取る調査。交通量の多い交差点や工業地帯の騒音下では判定が難しく、健全な区間も調査範囲に入るため時間と労力がかかる
上下水道DX技術カタログ 国土交通省が上下水道施設のメンテナンスに使えるデジタル技術をまとめた一覧。令和8年9月版は、国内の水道・下水道事業で導入実績のある実用段階が189技術、公的機関のフィールドで実証中の実証段階が33技術(2026年9月30日に52技術を追加)。国が技術を評価・認証したものではない(詳しくは用語集「上下水道DX技術カタログ」)
SAR(合成開口レーダ) 衛星から電波を照射し、その反射で地表を観測する方式。夜間や悪天候でも観測できる。漏水検知では、Lバンドと呼ばれる周波数帯のSAR画像を用いる方式が手引きの仕様書例に載っている
管路経年化率 水道管の全長に対し、法定耐用年数(40年)を超えている長さの割合。令和2年度末で20.6%(厚生労働省の広報資料)。40年を超えたら直ちに更新が必要になるわけではなく、老朽化の進み具合の目安とされている(詳しくは用語集「管路経年化率」)
群マネ 地域インフラ群再生戦略マネジメント。複数自治体・複数分野のインフラを「群」として捉えて管理する国の考え方。大分県16事業者の共同導入について、天地人は「群マネの考え方にも通じる」と説明している(詳しくは用語集「群マネ」)

04
国の手引きに載った先行事例は、うまくいかなかった例も隠していない

国土交通省水道事業課が令和7年6月に公表した「DXを用いた漏水調査等のスクリーニング技術についての導入の手引き」は、先行して導入した水道事業体や民間事業者へのヒアリングをもとに作られ、10の事例を載せています。事例ごとに導入の背景、発注方法、効果が書かれており、成果の出なかった例もそのまま記録されています。

数字で効果が示された事例

愛知県豊田市(衛星画像データを用いた漏水検知)

市内の全管路を4年周期の音聴調査で回る予定だったところに、衛星画像データを用いた漏水検知技術を導入しました。手引きが記す効果は、調査期間の短縮(5年から7か月)と、漏水発見箇所数の増加です。年間の比較で、従来技術が80kmで69件だったのに対し、新技術は2,217kmで259件とされています。手引きによれば、国内で当該技術を初めて導入したのは令和3年度の豊田市上下水道局です。

千葉県鴨川市(衛星画像データとAIによる漏水検知)

有収率が平成26年度の81.2%から70%台前半まで下がり、住民からの通報も少なくなって管路更新の路線選定に苦慮していました。衛星による解析で示された漏水疑い箇所148か所のうち50か所で漏水を発見し、発見した漏水の約8割は地表に現れない漏水でした。

兵庫県・大分県・宮城県など(県が主導した共同発注)

兵庫県は県の一括契約で県内の複数事業体が共同導入し、漏水疑いのある管路を15%まで絞り込んだとしています。大分県は調査対象を全体の2割以下に絞ることを目標に一般競争入札で発注し、県内の漏水が疑われるエリアは3,126か所、エリア内の管路延長は1,612km、絞込率は16.9%となって目標を達成しました。市町村ごとの絞込率は10%強から20%強です。宮城県は福島県の事業体にも参加を打診し、県をまたいだ共同発注を行いました。

国の導入の手引きに記載された先行事例の数字を並べた図。豊田市は調査期間が5年から7か月に短縮、鴨川市は漏水疑い148か所のうち50か所で漏水を発見し約8割が地表に現れない漏水、兵庫県は漏水疑いのある管路を15%まで絞り込み、大分県は3126か所・1612kmで絞込率16.9%。下部に、盛岡市では期待していた漏水発見率までは成果が得られなかったとの注記がある
「全部を聴く」から「絞ってから聴く」へ。ただし成果が出なかった例もある。
出典:国土交通省 上下水道審議官グループ 水道事業課「DXを用いた漏水調査等のスクリーニング技術についての導入の手引き」(令和7年6月)をもとに当社作成

期待どおりにいかなかった例

手引きの価値は、うまくいかなかった例を削っていない点にあります。岩手県盛岡市は、平成18年に合併した玉山地域の有効率が80%前後にとどまっていたことから、衛星画像データを用いた漏水検知を試行しました。結果について手引きは、漏水が疑われる範囲を特定することで調査対象の絞り込みは可能で効率的な手法の一つと考えている、としたうえで、「今回の対象区域においては期待していた漏水発見率までは成果が得られなかった」と記しています。

手引きは導入時の留意点として、ほかにも次のことを挙げています。

  • 判定できない条件がある:導入技術によっては、地下水位によって判定できない場合や、障害物でデータが得られない場合がある。兵庫県の共同導入でも、地下水位が高く条件が合わない団体は参加しなかった
  • 中身が見えない:解析の過程や内容が公表されていない技術がほとんどであり、成果に対する適切な評価方法は着手前に調整しておく
  • データが次に引き継げない:2度目の発注の際に、過去のデータを次の受注者へ引き継げないなどの課題が生じる場合がある。岐阜県瑞浪市では、過去データと重ね合わせた解析に必要な過年度データを使えるのが初回の受注者だけだったため、2回目も随意契約になった

3つ目は、設備保全でもよく聞く話です。点検をクラウドサービスに任せたら、蓄積したデータがそのサービスの中から出せなくなっていた、という構図と同じです。

05
「健全度」と「重要度」をかけ合わせて、直す順番を決める

漏水を見つけることと、管をどの順番で取り替えるかを決めることは、別の仕事です。9月25日に大分県内の16事業者が共同で導入したのは、後者の管路更新計画の策定支援でした。

天地人の発表文と、上下水道DX技術カタログの同社掲載ページ(実用段階編187・188ページ)によれば、このサービスは2つの評価を組み合わせます。

  • 健全度:衛星データ、環境データ、事業体が持つ管路情報と漏水履歴をAIで解析した漏水リスク診断の結果
  • 重要度:一般住宅から病院・学校・避難所といった重要給水施設まで、その管路が止まったときに暮らしへ及ぶ影響を包括的に評価したもの

この2つを組み合わせて複数の「更新優先シナリオ」を作り、各管路の更新の優先順位を決めるという仕組みです。

健全度と重要度の2軸で更新の優先順位を決める考え方を示した図。横軸は健全度で右に行くほど漏水リスクが高い、縦軸は重要度で上に行くほど止まったときの影響が大きい。右上の漏水リスクが高く重要度も高い区画が最優先、左下が経過観察となる。右側に工場やビルに置き換えた場合の例として、健全度は漏水履歴・布設年・材質、重要度は生産ラインや重要負荷への影響を挙げている
「壊れやすさ」と「壊れたときの痛さ」を分けて評価し、掛け合わせて順番を決める。4区分の表現と工場・ビルへの置き換えは当サイトによる整理。
出典:国土交通省「上下水道DX技術カタログ【実用段階編】」(令和8年3月)187ページの記載、株式会社天地人 発表(2026年9月25日)をもとに当社作成

ベテランの記憶を「重要度」に入れた事例

重要度の決め方については、手引きの豊田市の事例が参考になります。同市はAIによる管路劣化予測診断を導入した際、AIが決めた更新順位を現場が経験則で覆してしまう事態を避けるため、OBや熟練職員による「暗黙知定量化会議」を開き、その結果を順位に反映することにしました。

手引きの説明では、暗黙知の定量化とは、管路が担う機能と役割の重大性、そして破損したときの市民生活への影響度を数値にすることです。具体的には、過去に事故が起きて対応に苦労した管路、事故はないが起きたら苦労するであろう管路を抽出し、口径ごとに復旧人員・復旧時間・給水車台数などを定量化します。そこに地域性や施設の機能、移動時間といった特殊要因を加えてデータ化したとされています。

AIの出した答えをベテランが疑うのではなく、ベテランの知っていることをAIの入力に変えるという順番です。設備保全でストックマネジメントのリスク評価を組み立てるときにも、そのまま使える発想です。

大分県は「見つける」から「直す順番」へ進んだ

大分県については、手引きに令和5年度の共同発注の記録があり、そこでは段取りが3段で書かれています。

①衛星漏水判定(R5)
②判定結果に基づく現地調査、修繕(R5-7)
③管路更新計画の修正や効率的な漏水調査の継続実施(R8 以降)

そして令和8年度にあたる2026年9月、県内16事業者が管路更新計画の策定支援を共同で導入したと発表されました。なお手引きが記録している令和5年度の技術と今回のサービスは、技術名も発表元も異なります。同じ事業の延長だと資料から言うことはできません。ただ、手引きが「R8以降」と書いていた段階に、実際に県内の事業者がそろって進んだという読み方はできるでしょう。漏水を見つける段階から、どの管から直すかを決める段階へ移ったことになります。

06
衛星の外側で進む、地上の手段と国の目標

衛星は広い範囲を一度に見られますが、区画の単位は100m前後です。手引きの事例でも、福岡市は衛星画像による絞り込みに加え、音聴が難しい鉄軌道や主要国道の下の管など市内50か所にAI判定機能付きのIoTセンサを取り付け、漏水の有無を日々監視しています。衛星で絞り、地上で確かめ、重要な箇所は常時見張るという組み合わせです。

スマートメーター:検針の人手を減らし、漏水も拾う

与那国町の実証は、日本最西端の町で専門の検針員を確保できず、役場職員が本来の業務と兼務で各家庭を回って検針していたことが出発点です。無線通信機能付きの水道スマートメーターを各戸に設置し、低消費電力の広域無線(LPWA)で遠隔検針します。対象は113戸、実証期間は2026年4月1日から2027年3月31日です。期待される効果には、移動・検針時間の削減に加えて、検針データを使った漏水など異常水量の早期察知が挙げられています。

上下水道DX技術カタログを見ると、スマートメーターを使った技術が複数並んでいます。そのなかには「工業用水の管理」を掲げ、需要家ごとの流量データの一元管理やアラームを行う遠隔監視システムも掲載されています。

断水中でも漏水を探す:水ではなく気体を流す

音聴調査には、見落とされがちな前提があります。管に水が流れ、水圧がかかっていなければ漏水音が出ないということです。大規模な災害で断水すると、上流から通水と調査を繰り返しながら下流へ進むしかありません。発表文は、令和6年能登半島地震で6県38事業体の水道施設が被災し、最大で136,440戸が断水したことを引いています。

グッドマンが9月10日に開発開始を発表した装置は、純水を電気分解して水素(濃度4%未満に制御)を作り、トレーサーガスとして配管に充填して、漏れ出たガスを探索機で検出するものです。水も水圧もない状態で漏水箇所を特定できます。今回の大型機は毎分300Lのガス生成を目標とし、2026年11月上旬の試作品完成、2027年初頭の販売開始を目指すとしています。同社はすでに毎分60Lの機種を「工場等の大規模施設向け」として販売しています。

その先の技術:まだ原理検証の段階

日立製作所が9月2日に発表した「構造化電波」は、大気と地表の物体の3次元分布を宇宙から同時に捉えることを目指す観測技術です。今回は衛星搭載を想定したアンテナ構成で、電波の広がり(ビーム発散角)を29度から約6度に抑えられることを、シミュレーションと電波暗室の実験で確認しました。同社は応用先として鉄道・送電網・道路などの社会インフラと災害監視を挙げており、水道管の漏水検知に使うとは書いていません。衛星によるインフラ監視の裾野が広がっていることを示す例として挙げておきます。

国の目標:3年程度で全国に標準実装

これらの技術を全国に広げるため、国は数値目標を置いています。国土交通省が事務局を務めた上下水道DX推進検討会の最終とりまとめ(令和7年6月6日)は、今後3年程度でメンテナンスに関する上下水道DX技術を全国で標準実装させるとし、次のKPIを設定しました。

上下水道DXの国の目標値を示す棒グラフ。令和7年度当初から令和9年度末にかけて、水道事業者のDX技術導入率は34%から100%、下水道は21%から100%、水道事業者で全管路情報を電子媒体で管理している割合は67%から100%、下水道は71%から100%とされている
令和9年度末までに、DX技術の導入率と管路情報の電子化をどちらも100%へ。
出典:上下水道DX推進検討会「最終とりまとめ」(令和7年6月6日)をもとに当社作成

見落とせないのは、管路情報の電子化が、DX技術の導入と同じ重みで目標に入っていることです。最終とりまとめは、能登半島地震の被災地で管路情報が紙で管理されていたために、支援に入った事業者が復旧に活用しにくかった事例を挙げ、管路情報を紙だけで管理する事業者を令和9年度末にゼロにする(紙ゼロ)としています。

理由は単純です。手引きに載った多くの事例で、衛星解析の最初の工程は「管路データの提供」でした。共同発注の準備として、宮城県は管路のGISデータと過年度の漏水実績データの整備を挙げ、大分県は各事業者のGISデータを世界測地系に統一しています。兵庫県では、GISデータのない事業体のために県が整備の準備を行っています。地図に載っていない管は、宇宙からは診断できません。

07
自社設備への読み替え

ここからは、工場やビルで構内の給水設備・埋設配管を管理している方に向けた整理です。繰り返しになりますが、国の方針も手引きも公共の水道を対象にしています。以下は公共の水道で確立しつつある手順を、自社設備に借りてくるための対照表です。

水道事業者がやっていること その意味 工場・ビルの設備に置き換えると
管路情報の電子化(紙ゼロ) 診断もサービスの切り替えも、位置データがなければ始まらない 構内配管図が竣工図の紙だけになっていないか。埋設ルート・口径・材質・布設年を、設備台帳と結びつけて電子で持つ
漏水実績データの整備 衛星やAIの解析の入力になり、結果の検証にも使う 漏水・破損の修繕記録を、場所・日付・原因つきで残す。修繕伝票が経理にしかない状態を解消する
スクリーニングで調査対象を2割以下に絞る 全部を同じ頻度で見るのをやめ、疑わしい所に人手を集める 受水量メーターの非稼働時間帯(夜間・休日)の値を定点で記録し、系統ごとの差から疑わしい区間を先に絞る。手引きが従来手法として挙げる「夜間最小流量」の考え方
健全度×重要度で更新順位を決める 壊れやすさと、壊れたときの影響を分けて評価する 配管系統ごとに、漏水履歴・布設年・材質(健全度)と、止まったときに影響する生産ライン・冷却水・重要負荷(重要度)を並べる
暗黙知定量化会議 ベテランの経験を、AIの入力に変換する 「ここが漏れると大変だった」配管を、ベテランの記憶から洗い出して系統図に書き込む。退職の前にやる
データ引継ぎの確認 過年度データが初回の受注者しか使えず、随意契約が続いた例がある 点検・診断サービスを契約するとき、生データと解析結果を自社が受け取れる形式で納品させる条項を入れる
断水時の漏水調査手段 水圧がないと音聴は使えない 災害時の復旧手順(BCP)に、水を使わない漏水探索の手段と外部の手配先を入れておく

右列のうち、衛星を使うものは1つもありません。衛星が漏水リスクを示す約100m四方という区画の大きさでは、敷地内のどの系統が怪しいかまでは分けにくいことが多く、借りるべきは道具よりも手順です。記録を電子で持ち、疑わしい所から調べ、壊れたときの影響で順番を決める。水道事業者が国の目標として取り組んでいることは、時間で回す保全から状態を見て回す保全への移行そのものです。

まとめ

国土交通省は2026年9月に衛星データ利用の取組方針を公表し、水道管の漏水調査のスクリーニングを、衛星活用のなかでも実装段階にある施策として位置づけました。カタログと手引きはすでにそろい、財政支援の仕組みもあります。民間では同じ月に、大分県内16事業者の共同導入や、延べ導入事業体数100の突破が発表されました。

一方で、国の手引きは成果の出なかった例も記録しています。衛星で分かるのは漏水の可能性が高い区域であり、地下水位などの条件によっては判定できず、解析の中身が公表されていない技術がほとんどです。衛星は音聴の代わりではなく、音聴の順番を決める道具だというのが、先行事例から読み取れる実像です。

そしてどの事例でも、最初に求められたのは管路の位置データと漏水の履歴でした。国は令和9年度末までに紙だけの管路台帳をなくす目標を置いています。構内に埋設配管を抱える工場やビルでも、この2つの記録が電子でそろっているかが、次の打ち手を選べるかどうかの分かれ目になります。

設備・保全担当者が明日からできること

  • 構内配管図が紙だけになっていないかを確認する:竣工図、改修時の図面、現場での朱書きがばらばらに残っていないかを見ます。埋設配管のルート・口径・材質・布設年のうち、どれが電子で分かり、どれが分からないかを一覧にするだけでも、次の一手が決まります。
  • 受水量の夜間・休日の値を記録し始める:生産が止まっている時間帯にもメーターが回っていれば、どこかで水が出ています。毎週同じ曜日・同じ時刻に読むだけで、系統ごとの変化が追えます。
  • 過去の漏水・破損の修繕記録を1か所に集める:場所・日付・原因・対応を、設備台帳の配管系統にひもづけて残します。衛星でもAIでも、診断の入力になるのはこの履歴です。
  • 配管系統ごとに「止まったら何が止まるか」を書き出す:生産ライン、冷却水、空調、消火設備への影響を系統図に書き込みます。ベテランが「ここは大変だった」と覚えている箇所を、在籍しているうちに聞き取っておきます。
  • 点検・診断サービスの契約で、データの受け取り方を確認する:解析結果だけでなく生データを、自社が他のシステムでも読める形式で受け取れるかを確認します。手引きには、過去データを引き継げず同じ業者との随意契約が続いた例が載っています。

よくある質問(FAQ)

Q. 衛星で水道管の漏水が本当に分かるのですか?

A. 分かるのは漏水そのものではなく、漏水の可能性が高い区域です。国の衛星データ利用方針の施策シートは、漏水リスクを約100m四方の区画で5段階評価するとしています。実際に漏水箇所を特定するのは、その後の音聴調査です。国の手引きには、絞り込みで調査期間を5年から7か月に短縮した豊田市の例がある一方、盛岡市のように「期待していた漏水発見率までは成果が得られなかった」例も記録されています。地下水位などの条件によっては判定できない場合もあります。

Q. 国の方針では、衛星による漏水調査はどの段階にあるのですか?

A. 2026年9月2日に公表された「国土交通省インフラ分野の衛星データ利用に関する取組方針」の関連施策集で、水道管の漏水調査等のスクリーニングは「実装」段階とされています。ダムの変位計測が「実証」、道路の被害状況把握が「技術開発」とされているのと比べ、実務への組み込みが先行しています。上下水道DX技術カタログ(令和7年3月初版、最新は令和8年9月版)と導入の手引き(令和7年6月)が整備され、カタログは年2回程度更新するとされています。

Q. 上下水道DX技術カタログとは何ですか?

A. 国土交通省が、上下水道施設のメンテナンスの高度化・効率化に使えるデジタル技術をまとめた一覧です。令和8年9月版は、国内の水道・下水道事業で導入実績のある実用段階が189技術、公的機関のフィールドで実証中の実証段階が33技術です(2026年9月30日に52技術が追加されました)。技術ごとに概要、適用条件、コスト、導入実績が載っており、検索や比較表の作成もできます。ただしカタログ自身が明記しているとおり、国が掲載技術を評価・審査・認証したものではありません。効果の数値は各社の申告として読む必要があります。

Q. 工場やビルの敷地内の配管にも、衛星による漏水調査は使えますか?

A. 国の方針と手引きが対象にしているのは、水道事業者が管理する公共の水道管です。工場やビルの敷地内の給水設備・埋設配管は対象ではありません。また衛星による評価の単位は約100m四方などの区画で、敷地の規模によっては細かく分けられません。自社設備で参考にすべきなのは衛星そのものより手順です。管路の位置データと漏水履歴を電子で持つこと、非稼働時間帯の流量で疑わしい系統を絞ること、壊れやすさと止まったときの影響を分けて更新の順番を決めることは、敷地内の配管にもそのまま当てはまります。

Q. 導入にかかる費用はどのくらいですか?

A. 技術によって異なります。上下水道DX技術カタログの天地人「宇宙水道局」のページには、事業体の規模や管路延長による見積が前提としたうえで、イニシャルコスト約200万円から、ランニングコスト約100万円からと記載されています。国の手引きには、東大阪市で市域の3分の1を調査する単年度の事業費と同等の費用で全域を調査できた例や、瑞浪市で財政部局に「衛星調査費用が従来手法と比較し大きく変わらない」と説明した例が載っています。複数の事業者でまとめて発注すると、単独より費用を抑えられた例が多いとされています。

Q. 国はいつまでに、何を目指しているのですか?

A. 上下水道DX推進検討会の最終とりまとめ(令和7年6月6日)は、今後3年程度でメンテナンスに関する上下水道DX技術を全国で標準実装させるとし、令和9年度末までの目標を置いています。水道事業者のDX技術導入率を令和7年度当初の34%から100%へ、全ての管路情報を電子媒体で管理している水道事業者の割合を67%から100%へ引き上げる目標です。下水道についても導入率21%から100%、電子化71%から100%を掲げています。

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